2011年12月28日水曜日

高齢者にやさしい診療所ツールキット

今週の勉強会は、WHOによる"Age-friendly Primary Health Care (PHC) Centres Toolkit"の和訳(右掲書)の解説でした。限られた時間でしたので、リハビリ科の先生に、その背景、総合評価、ケアコーディネータ、予約システム、ユニバーサルデザイン(UD)について抜粋して講義して頂きました。特に総合評価から4つの「老年医学の巨人」ー物忘れ、うつ、尿失禁、転倒ーを適切に汲み上げることが強調されました。
個人的には、往診や在宅診療の記載がなかったのが不思議だったのですが、そのものは日本のように高度にインフラが整備された国でのみ可能なことなので、省かれたのかもしれないとのことでした。

本ツールキットの内容からは離れるのですが、例えば、転倒から大腿骨頚部骨折に至った場合は、一般的な悪性腫瘍よりも予後が悪いと言われてます。その問題解決には、認知機能、知覚の問題、運動器、栄養状態、多剤服用などが複雑に絡んでおり、チームによるシステム思考が要求される分野であり、対策は非常に個別性の高いものになるはずです。無理に一般化を推し進めると、前がん状態に準えて表現すれば、前転倒状態とも言える概念に、運動不安定症、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)、サルコペニアなど次々と新しいものが提唱されているように混乱を極めた状態に陥ってしまいます。また、医師不足から来る医療機能の集約化は、高齢化に伴う患者の移動困難に相反する流れで、これからますます医療の網の目から漏れてしまう高齢者が増えていくように思うのが杞憂であってくれればよいのですが。

2011年11月23日水曜日

実地疫学の味方 - EZR on R Commander

NEJMの2011年11月10日号に「2011年の欧州における腸管出血性大腸菌感染事件」におけるドイツの実地疫学の報告が掲載された。(Robert Koch Institutの最終報告はこちら)その中で原因食材の同定のためマッチドケースコントロール研究が行われ、解析には条件付きロジスティック回帰分析が用いられている。補遺によると、解析にはRが使われたようだ。そこで解析を検証してみようと考えたが、生データが入手出来ない。

そこで、代わりに1996年のデンマーク・フュン県でのネズミチフス菌による食中毒のアウトブレイク1のデータがEpi packageにあるので、それを読み込んで、この解析法を追体験してみることにした。

しかし、あまり多用しない統計解析方法で、リファレンスを参照しつつ、コンソールにコマンドを打ち込むのは、手間隙がかかる。そんなとき役に立つのが、R Commanderをベースに自治医科大学さいたま医療センター血液科が開発した"EZR on R Commander"である。今回はこれを用いることとする。以下に、EZR on R Commanderがインストールしてあることを前提に解析の手順を図示する。

1.準備として、コンソールでEpiパッケージをインストール、ロードして、Rコマンダーを起動する。そして、パッケージに含まれるデータを読み込む。

2.パッケージ名"Epi"とデータセット名"S.typh"を選択

3.統計解析からマッチドペア解析⇒条件付ロジスティック解析を選択

3.目的変数"case"、説明変数"beef, egg, ..."、マッチドペア"set"の選択

4.plant7(7番プラント製造の肉を2週間以内に食べた場合)のオッズ比が有意に高いことが判明する。

蛇足だが、現在公開中の映画「コンテイジョン」では、リアリティを追求し、CDCなどを取材し、実地疫学者の仕事を描いたり、SEIRモデルやBasic reproduction numberの話が出てきたりするらしい。ぜひ、見ておきたい作品。



1) Molbak K and Hald T: Salmonella Typhimurium outbreak in late summer 1996. A Case-control study. (In Danish: Salmonella typhimurium udbrud paa Fyn sensommeren 1996. En case-kontrol undersogelse.) Ugeskrift for Laeger., 159(36):5372-7, 1997.

2011年11月10日木曜日

プライマリケアにおける精神科 (PIPC®)

総論


  • プライマリ・ケア医の患者の30%以上が精神疾患に罹患し、少なくとも5%がうつ病である。
  • うつ病診療、自殺防止のゲートキーパーはプライマリ・ケア医である。
  • 焦点をあわせないと精神疾患はみつからない。
  • プライマリ・ケア医だからこそ発見できることも多い。
  • MUSとは何らかの身体疾患が存在するかと思わせる症状が 認められるが、適切な診察や検査を行っても、その原因となる 疾患が見出せない病像」のことである。
  • MUSはしばしば精神疾患を診断するための「入り口」になる。
  • 身体科医は身体疾患に対しては『仮説→検証型』の診療を行う。
  • しかし、精神疾患に関しては『仮説→検証型』の診療をうまく適用できない。
  • PIPCを導入することで精神疾患に『仮説→検証型』の診療システムを適用できるようになる。
  • DSMとは米国精神医学会が定めた『精神障害の診断と分類の手引き』である。
  • 多軸診断と操作的診断が特徴である。
  • DSM-IVをプライマリ・ケア医の日常診療に使うことはかなり難しい。


診断


  • フォーマットに沿って話を聞くことで効率よく問診することが可能である。
  • 診療に不必要な長い話をうまくコントロールすることが重要である。
  • 背景問診とは患者の背景と個別の事情をとらえるための問診である。
  • 背景問診を行うことで患者と医師の信頼関係を創ることができる。
  • MAPSOシステムとは身体科で遭遇する頻度が高い精神疾患をまとめたものである。
  • MAPSOシステムでは身体科で遭遇する精神疾患の80%が対応可能である。
  • 気分障害にはうつ病、双極性障害、気分変調性障害が含まれる。
  • うつ病と双極性障害は異なる疾患であるので注意が必要である。
  • 気分障害の問診は身体症状から始めるとスムーズに入れる。
  • 希死念慮と躁エピソード、軽躁エピソードのチェックを忘れない。
  • 気分障害は非常に頻度が高く、うつ病との併存も多い。
  • 全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、社会不安障害などが含まれる。
  • Psychosisは未成年や若年成人を中心に思いの外多い。
  • Psychosisはこちらから訊いてみないとわからない。


MAPSO 問診シナリオ
 ■ 背景問診
【主訴】これは最初に訊いてはいけません。問診表などで確認すること 【既往歴】 「今までに、かかった内科や外科などの病気を教えていただけますか」
【心療既往歴】 「これまでに心療内科、精神科に通院したことはありますか」 「どんな薬を飲んでいましたか」 「薬の効果は身体にあっていましたか」
【家族心療歴】 「ご家族の中で、心療内科、精神科に受診されたことがある方はいらっしゃいますか」
【職業】 「お仕事は何をなさっていますか」 「具体的にどんな仕事ですか?営業?設計?販売?詳しく教えてください」 「職場の人間関係はどうですか」 「仕事でストレスを感じますか」 (自営業なら) 「立ち入って伺いますが、事業は順調ですか」
【家族構成】 「同居している家族構成を教えていただけますか」 「ご家族のご職業を教えていただけますか」 「ご家族の人間関係はどうですか」
【プライベート】 「彼氏はいますか」 「年齢は何歳で、何をしている人ですか」 「彼氏いない歴は何年ですか」 「彼氏とはうまくいっていますか」
【服薬】 「現在どのようなお薬を飲まれていますか」
【飲酒】 「お酒は飲みますか」 「どのくらい飲まれますか」
【喫煙】 「たばこは吸いますか」 「どのくらい吸いますか」
 ■ 心理コンディション(MAPSO)
 ―うつ症状−
〈不眠〉 「寝つきはどうですか」 「途中で目が覚めたりしますか」⇒(はいの場合) 「またすぐ眠れますか」 「朝早く目が覚めたりしますか」 「朝起きた時によく寝た気がしますか」
〈倦怠感〉 「体がだるく感じたり、疲れやすかったりしますか」
〈集中力の低下〉 「なかなか物事に集中できなくなっている、ということがありますか」
〈判断力の低下〉 「判断力が落ちていますか」 「普段なら問題なく決められることが、なかなか決められなくなっていますか」
〈苛立ち〉 「イライラしますか」
〈自責感〉 「よく自分を責めたりしますか」
〈体重減少〉 「体重が減りましたか」 「食べてもおいしくないですか」
〈抑うつ気分〉 (以下のどれかひとつを尋ねてもよい) 「気持ちが沈み込んだり、滅入ったり、憂うつになったりすることがありますか」 「悲しくなったり、落ち込んだりすることがありますか」 「気づくと涙が出ているとかありますか」 「 (ほーっとため息をついて) ・・・ってなることはありますか」
〈喜びの消失〉 「何をしても楽しくなくなっていませんか」
〈希死念慮〉 (上から順番に聞いて、答えが いいえ になったところで終了) 「死んでしまった楽だろうなあーと思ったりしますか」 「死ぬ方法について考えますか」 「遺書を書きましたか」 「ずーっと死ぬことばかり考えていますか」 「実際に死のうとしていますか」 「自分でそれらを止められそうにないですか」
 −躁エピソード− 「ハイテンション!になったことはありますか」 「自分が大きく爽快に感じられて、どんどんアイデアがわいてきて、すっごくキレやすくなって(易怒性) 、 ずーっとしゃべりまくってることってありますか」 「眠る必要性がないように感じたことはありますか」 「気持ちが突っ走るように感じたことはありますか」 
−軽躁エピソード− 「程度はそれほどではなくても、普段の落ち込んでいる状態と明らかに違う状態になったことはありますか」 「その状態は、1日とか2日とか、何日か続きましたか」
 −不安障害−
〈GAD〉 「あなたは心配症ですか」
〈PD〉 「心臓がドキドキして、もう駄目だ、死ぬかもしれない!狂ってしまうかもしれない!と思ったことはありますか」 ⇒(ある場合) 「またなったらどうしようと考えてどうしようもなくなることはありますか」 (予期不安)
〈OCD〉 「ガスの元栓、家の鍵の確認に時間がかかってしまったり、確認のために、また戻って見てしまうようなことがあり ますか」 「確認したり、手を洗ったり、数えたりが気になますか」
〈PTSD〉 「フラッシュバックするようなトラウマ体験がありますか」
〈SAD〉 「あなたはあがり症ですか」
 −精神病症状−
〈考想化声〉 「あなたの考えが、頭の中で声になって響く感じはありますか」
〈被注察感〉 「見知らぬ皆から監視されるように見られているように感じますか」
〈考想伝播〉「向こうから来た知らない人に、あなたの考えが見透かされたような感じがしたことはありますか」
治療


  • 適切に会話するだけでうつ病の改善が期待できる。
  • うつ病では休養がとても重要である。
  • 職場の指導・教育・啓蒙も重要である。
  • 啓蒙書やパンフレットも有用である。
  • 抗うつ薬の第一選択薬はSSRI/SNRIである。
  • 抗不安薬には抗うつ作用はない。
  • SSRI/SNRIは少量から開始し漸増する。
  • SSRI/SNRIを開始するときには患者によく説明することが重要である。
  • SSRI/SNRIは寛解が得られるまで増量する。
  • SSRI/SNRIは寛解が得られても最低6∼9ヶ月は投与量を変えずに継続投与する。
  • SSRI/SNRIはゆっくり減量・中止する。
  • 抗不安薬は「今にここにある不安」の軽減には大変有効だが、不安の予防効果はない。
  • 抗不安薬の使用に際しては、依存性と耐性に注意する必要がある。
  • ドグマチールは最大量50mg/dayまで。
  • 不眠にはテトラミド®、デジレル®、レスリン®、リフレックス®、レメロン®。
  • 自殺について尋ねることはタブーではない。
  • 自殺リスクが高いと判断したら、まずは自殺しない約束をする。
  • 精神科専門医へ紹介すべき症例もある。
  • 精神科専門医へ紹介するときは見捨てられ不安などに注意する。
リンク

2011年9月30日金曜日

【補遺】熱帯病・旅行医学関連リソース

前回、ネット上のリソースが大事と言いながら、リンク集を載せることを失念しました。下記以外にも参考となるサイトがあるかと思いますが、関心に合わせてブックマークを充実させて下さい。

日本語



英語


2011年9月28日水曜日

海外旅行後の発熱

今回は、前に研修医の先生から受けていた「海外旅行後に発熱」した患者さんをどう診ればいいかという質問に、答える意味で、NEJMの2002年のレビュー記事"Illness after International Travel"をもとにお話ししました。私も旅行医学会の会員ではありますが、実際の診療の経験はありません。さらに、この分野は覚えることが多く、しかもその国の事情など流動的ですので、熱帯病の代表マラリアに関心を持ち、ネットから必要な情報の入手先を知っておいて頂ければ、良いように思います。海外旅行後の発熱

2011年8月24日水曜日

家庭医のEpley手技


BPPVの症状
  • Attack:突然発作的に起き、短時間持続し、特定頭位で繰り返すめまい。
  • Blurred:回転するというよりも目がぼやけるという感じ。
  • Check Complications:難聴、耳鳴、失神、眼前暗黒感などは認めない。
BPPVの診断:Dix-Hallpike法
  1. 座位にて水平に左45°回旋する。
  2. その位置から懸垂頭位に落とし込む。
  3. 右側も同様に検査。(右側は左側の2倍の頻度らしい…)
BPPVの治療:Epley法
  1. 懸垂頭位で患側に45°頸部を捻転し維持。
  2. 懸垂頭位を保ちながら頭部を徐々に健側下に90°捻転し維持。
  3. 頸部捻転を維持しながら健側下の側臥位にして維持。
  4. 頭部を屈曲して座位にする。
言葉にすると分かりづらいが、イメージとしては頭側から患者さんを見て金庫のダイヤルと見做す。首を内側のダイヤル、肩(胴体)を外側のダイヤル、1クリック45°とすれば、まず患側に内側のダイヤルを1つ、そして反対側に2つ、次に外側のダイヤルを反対側に2つ。結果として内側のダイヤルである首は、正面から患側に3つ分移動している。そこから座位へさせるので患側と反対側のベッドサイドに腰掛けて終了である。YouTubeに多くの動画が投稿されているので、一度見ておいてください。


疑問:非専門医である家庭医がEpley手技を行った場合でも有効か?
⇒今回は、参考文献1をGATE frame(参考文献2)の方法で、Critical Appraisalを行って見ました。

参考文献

  1. Canalith repositioning maneuver for benign paroxysmal positional vertigo: randomized controlled trial in family practice. Canadian Family Physician June 2007 vol. 53 no. 6 1048-1053
  2. The GATE frame: critical appraisal with pictures. Rod Jackson University of Auckland, New Zealand.

2011年8月10日水曜日

医療コンフリクト・マネジメント

今回は、医療コンフリクト・マネジメントの学習会でした。

裁判以外での紛争解決をADR(Alternative Dispute Resolution)と称するが、弁護士主導の調停では、賠償金の折り合いは付けられても、患者側、病院側双方に心理的なわだかまりが残ってしまう。そこで、弁護士法第72条にある調停の独占業務条項への抵触を避けるため、病院職員による示談交渉という形式をとりつつ、実際には、不偏性を保ち、両者をエンパワーする医療メディエータによる対話の促進が、メディエーションである。医療メディエーション・スキルの背景には、社会構成主義、ナラティブ・アプローチ、ソーシャルワークの理論がある。「日本メディエータ協会」では、その育成に力を注ぎ、現在全国で1、561名の医療メディエータがいるとのこと。

以上の内容を概説頂いた上で、誠実に対応したが裁判に至ってしまったケース、メディエーションスタイルはとらなかったが、メディエーションスキルを駆使したケース、メディエーションスタイルをとったケースのご紹介を頂いた。

2011年7月13日水曜日

χより始めよ。


今回は、先日札幌で開かれた日本プライマリ・ケア連合学会で発表したものに教育的な改変を加えたものを披露させて頂いた。基本的な筋は、このブログで以前公開した「MGHの症例検討会キーワード50 ーコーパス言語学で学ぶ医学英語ー」を発展させたもので、1990年から2011年までのCPCコーパスを前半と後半に分け、後半の語彙のkeynessを算出したものだ。意外な結果が出て、嵌ってしまい、発表までの2ヶ月くらい色々文献を渉猟した。確定的な結論には結びつかなかったが、自分にとっては有意義なものとなりました。今回は、それに下記3点を膨らませたものを勉強会で紹介した次第。
  1. χ2検定の方法(SOSの公式):χ2統計量は2×2表(自由度1)に限れば、電卓でも簡単に計算でき、意外と予備研究や日常の業務改善の効果を測定するのに有用だと思っている。そこで、本投稿のタイトルにもした。SOSの公式というのは、たすき掛けの差をSquareし、Overall totalを分子(Overだから上)に、Subtotalsを分母(Subだから下)にして計算する手順をまとめたものです。
  2. English for Specific Purpose(ESP):以前の投稿でも書いたが、個人でも自分の専門分野の論文のコーパスが容易に作れる時代になったので、コンコーダンサーを導入することでテーラーメイドの英語の学習ができることの紹介。コンコーダンサーを利用して、ティアニー先生のClinical Pearlを1つ紹介します。
  3. 「臨床医学の誕生」からHarvard Medical SchoolでのThe New Pathway導入に至る経緯。アメリカ合衆国という国のresponseの速さと継続性、これは我々も素直に見習う必要がある。
スライドは折角Keynoteで作成したので、音声をつけてYouTubeで公開しようと思ったのですが、30分を超えてしまうので断念しました。しかし普段自分の発表を聞くということがなかったので録音を聞いて口演の拙さを認識するいい機会になりました。代わりにPowerpoint形式で出力し、Scribdで公開します。

NEJM@ランチョン

リンク集

2011年6月29日水曜日

Quality Indicator


今回は、第125回北海道診療情報管理研究会に参加された先生から、聖路加国際病院院長福井次矢先生の御講演「QIを用いた医療の質改善の試み」の報告でした。聖路加国際病院におけるQIの成果は発行され、Amazonでも入手でき、同病院のサイト "[医療の質]を測る"で公開されています。

医療の質:DonabedianのSPOモデルが1966年に提唱される。
  • Structure (resources and administration)
  • Process (culture and professional co-operation)
  • Outcome (competence development and goal achievement)
なかでもProcessが重視されてきて、1990年には「個人や集団を対象に行われる医療が、望ましい健康状態をもたらす可能性の高さ、その時々の専門知識に合致している度合い」と定義されるに至る。GuyattによりEBMの言葉が使われ始めるのが、1992年以降からだが、上記定義は、まさに、「EBM遵守度」と再定義されることになります。そしてその指標が、Quality Indicatorとなるわけです。例えば、日本病院会では下記の11項目をQI項目とした30施設の結果を公開しています。

  1. 患者満足度(外来患者)
  2. 患者満足度(入院患者)
  3. 死亡退院患者率
  4. 入院患者の転倒・転落発生率、損傷発生率
  5. 手術開始前1時間以内の予防的抗菌薬投与率
  6. 退院後6週間以内の緊急再入院率
  7. 予防可能であった可能性のある静脈血栓塞栓症の発生率、手術患者における入院中の静脈血栓塞栓症の発生率
  8. 褥瘡発生率
  9. 糖尿病患者の血糖コントロール、HbA1c<7.0% (HbA1c (JDS) <6.6%)
  10. 急性心筋梗塞患者のアスピリン投与率
  11. 手術患者における静脈血栓塞栓症の予防行為実施率

上記のように公開するだけでも、ホーソン効果、ベンチマーキングとしての効果などから医療の質の向上が期待できるが、さらには個人・組織の行動変容のための方略が必要となる。例えば、マニュアルの改訂、勉強会や研修会、フィードバック、P4P(pay-for-performance)など。しかし、ネガティブなP4Pは米国では医療現場に影を落としているらしい

2011年6月21日火曜日

【番外】かぜの科学

保育士の専門学校での講義のネタを仕入れるために読んだ次第。人は1日に平均4回鼻に手をやるとか、飛行機に乗ると1週間以内に20%の確率で風邪をひくとかいうトリビアが満載。結論は、風邪の確実な予防法や治療法はないということなのだが、一気にそう言ってしまっては身も蓋もない。そこに到るまでに、英国のCCU(Common Cold Unit)での実験を紹介し、可能な限りの予防法を提案し、古今東西の治療法を俎上に載せている。商業主義の薬品に対しては遠慮無くその有害性を指摘し、抗菌薬の無効性は繰り返し強調されている。我々の生命がDancing Matrixのなかで進化を遂げてきたことや害を与えずに罹患期間を短く効果のある治療法として介護者の愛情を挙げてある点、巻末にある文筆家の風邪に関するユーモアあふれる名言などは、その結論にもかかわらず、読後も悲観的にならずに済む工夫です。巻末には、詳しい引用元を示した原注も訳されており、医療者にも役に立つ一冊です。
日本には、一般の人と専門家をとりもち、専門家も唸らせるジャーナリズムってのが、皆無に近い、需要が先か、供給が先かっていう問題はあるが。そんな中で本書が訳されたことは、科学に対する彼此の社会の差を実感する意味でも意義深いと思う。連綿としたローマ時代からの科学的思考の蓄積を読むと、その昔、ナウマン教授が日本人の西洋科学の吸収を"die kritiklose Nachahmung"(無批判な模倣)と指摘したことも、冷静に頷けるような気がするのであります。

2011年6月14日火曜日

脱水症の診断と治療

【病因学】
  • 水不足、飲水行動が取れない、口渇がない
  • 環境(高温環境、航空機内*などの乾燥環境)
  • 疾患による発熱、嘔吐・下痢
*航空機内は、湿度が10%程度で、1時間あたりの不感蒸散80mlにもなる。

【診断】
小児の場合:
  • capillary refill test:LR+ 4.1、LR- 0.57
  • 涙液:LR+ 2.3、LR- 0.54
  • 全体の外観:LR+ 1.9、LR- 0.46
  • 眼球陥凹:LR+ 1.7、LR- 0.49
  • 粘膜・皮膚の湿潤性:LR+ 1.7、LR- 0.41
成人の場合:
  • 尿比重(USG)>1.020 :LR+ 11、LR- 0.09
  • capillary refill test:LR+ 6.9、LR- 0.7
  • 眼球陥凹:LR+ 3.4、LR- 0.5
  • 腋窩の乾燥:LR+ 2.8、LR- 0.6
  • 舌の乾燥*:LR+ 2.1、LR- 0.6
  • 口腔の乾燥:LR+ 2.0、LR- 0.3
  • 舌の縦皺:LR+ 2.0、LR- 0.3
  • tilt test(起立で脈拍が30回以上増加、但し臥位で2分間、立位で1分間以上経過して測定すること):LR+ 1.7、LR- 0.8
*漢方で五苓散をはじめとする水利薬の適応となる所見、舌の歯圧痕は軽い脱水の所見なのかもしれない。

【治療】
経口補水液(ORS)


既製品を利用

Na
ブドウ糖浸透圧
OS-1 50mEq/L
20mEq/L
2.5g/dl
270mOsm/L
アクアライトORS
35mEq/L
4.0g/dl
200mOsm/L
ソリタ-T顆粒3号
35mEq/L
3.42g/dl 
199mOsm/L
ソリタ-T顆粒2号
60mEq/L
1.6g/dl

スポーツドリンク500mlを半分に薄めたものに1gの塩を加える(塩1g=17mEq/L)

Naブドウ糖
アクエリアス
14.8mEq/L
4.7g/dl
307mOsm/L
ポカリスエット 
21mEq/L
6.7g/dl
323mOsm/L

完全自炊

Naブドウ糖浸透圧
WHO-ORS(1975年)*
90mEq/L
2.0g/dl 
311mOsm/L
WHO-ORS(2002年)**
75mEq/L
1.35g/dl
245mOsm/L
American Academy of Pediatrics
40~60
2.0~2.5
ESPGHAN***
60
1.6
240mOsm/kg
*コレラ(便中Na120mEq/L)を想定
**通常の胃腸炎(便中Na50mEq/L)を想定
***European society of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition
具体的なレシピを下記に記す。

清潔な水1Lを確保する
  • 煮沸(熱いままPETボトルに入れないように注意)
  • 水を浄化する安くてよい方法は、清潔な透明の容器に水を入れて、直射日光に最低 6時間晒す。もしも曇り場合は、2日間晒す。
  • 緊急避難的に化学的な消毒の方法があり、手法としては、水1リットルに塩素剤(次亜塩素酸ナトリウム6%の製品。「ピューラックス」)を3滴入れ、よくかきまぜる。30分ほど放置してから使う。
上記に調味料のサ・シ・スを加味。
  • 砂糖(ショ糖) 40g大さじ4杯+小さじ1杯
  • 塩 3g小さじ3分の1
  • 酢として、100%グレープフルーツジュース、あるいはレモンジュースを好みに応じて30~100ml追加。(なけらばなくて構わないが、味の調節、クエン酸、カリウムの補充のために。)
参考
  • 小さじ=5cc、塩なら5g、砂糖なら3g相当(ペットボトルのキャップで代用可能)
  • 大さじ=15cc、塩なら15g、砂糖なら10g相当
  • 塩少々=親指と人差し指でつまんだ程度、小さじ1/8相当
  • ひとつまみ=親指と人差し指、中指でつまんだ程度、小さじ1/4相当
持続皮下注射
  • 腹壁や肋間の皮下に刺したプラスチック留置針から5~24時間で500-1000ml程度の補液をします。
  • 注射液のため少しむくみますが,時間をかければ吸収されます。
  • 等張液(血液と同じ濃さの注射液)であれば痛みは少なく副作用も最小限です。
点滴

Naブドウ糖浸透圧
生食
154mEq/L
0g/L
308mOsm/L
ソリタ1号液
90mEq/L
26g/L
324mOsm/L
ソリタ2号液
84mEq/L
32g/L
346mOsm/L
ソリタ3号液
35mEq/L
43g/L
309mOsm/L
ソリタ4号液
30mEq/L
43g/L
299mOsm/L
5%グル
0mEq/L
50g/L
278mOsm/L
生食は、点滴後、細胞内:細胞外組織:血管内=0:3:1で分布する。
5%グルは、点滴後、細胞内:細胞外組織:血管内=8:3:1で分布する。

【Take-home messages】
  1. ウイルス性胃腸炎に対する五苓散(NO17)の有用性
  2. NaCl 1g = 17mEq・・・塩沢ときの第一法則
  3. ブドウ糖とNaClのモル比が1になるための砂糖と塩のg比は11.7である。・・・塩沢ときの第二法則
【参考文献】