2013年6月30日日曜日

かぜと"かぜ"のように見える重症疾患

しばらく放ってあった「“かぜ”と“かぜ”のように見える重症疾患/ケアネットDVD 」のDVDを観ました。メモと感想。

  • 次の文献は必読:症例とQ&Aで学ぶかぜ症候群の診療―ガイドラインをめぐって―“かぜ”症候群の病型と鑑別疾患 著者:田坂佳千 (田坂内科小児科医院) 資料名:今月の治療 巻:13 号:12 ページ:1217-1221 発行年:2006年01月23日
  • 風邪は基本的に除外診断だが、除外すべき疾患が稀なこと、プライマリのセッティングでは疾患が熟していないことに診断の困難性がある。
  • 患者さん自身にいつもの風邪とどう違うか尋ねる。
  • 熱のみの所見で、安易に抗菌薬処方やラベリングをしない。(安易に風邪とは診断せずに、Acute Undifferentiated Feverとでもしておく。AUFには、Wiedersehenがつきもの…)
  • Centor基準:Fever, no Cough, Anterior Lymphadenopathy, Tonsilitis (FouCAuLT)→3点以上で迅速検査陽性か4点以上でアモキシリン(伝染性単核球症が除外出来れば…)
  • 咽頭痛のRed Flag:嚥下障害、開口障害、Tripod position
  • 喉頭軟線撮影:読影は、vallecula signに注意。(参照:Test Your Skill In Reading Pediatric Lateral Necks Radiology Cases in Pediatric Emergency Medicine
  • 現時点では、プロカルシトニンは迅速で結果が出ないので、有用性は限られる。
端折ったメモなので、私とコンテキストを共有する方にしか役立たないかも。非常にオーガナイズされた講演で、お薦めです。もう少し身体所見について踏み込んで頂ければ死角はないかと。でも、やはり、「さっきから熱が出ました」という方や「さっき1回吐きました」という患者さんが多いセッティングでは限界があります…orz 

2013年6月29日土曜日

Experience Based Medicineの陥穽

Wikipediaによると、伝説の医師会長武見太郎氏は
「(医師の集団は)3分の1は学問的にも倫理的にも極めて高い集団、3分の1はまったくのノンポリ、そして残りの3分の1は、欲張り村の村長さんだ」
と嘆いたという。これが事実だとして、3軒ドクターショッピングをしたとすると、サイコロを振って5や6が出る確率で名医、3や4が出る確率で凡医、1や2が出る確率で村長さんに当たることになります。樹形図を書いてみれば一目瞭然ですが、1回も村長さんに当たらない確率が8/27、1回当たる確率が12/27、2回当たる確率が6/27、3回とも当たってしまう確率が1/27となるわけです。7/27の方が当たりが悪いわけで、医者ってのは、大半は村長さんだと思かもしれません。逆に8/27の方がマスコミが言うのとは違って村長さんはいないと思うかもしれません。しかし、実際には、この過半数を超える方々の判断は事実とは異なってしまうのです。

実際、3例くらいのサンプルでは、その中にまともな医者がゼロだったとしても、その95%信頼区間は、0-1.0としか言えないわけです。(cf. wikipedia "Rule of tree"

そんな少ない経験に即した判断の陥穽を避けるためのツールが、悪名高い「偏差値」のもととなった正規分布なのです。大雑把に言って、偏差値70以上と30以下は2.5%ずつ、60-70と30-40は16%ずつ、残る40-60は63%という訳です。

2013年6月28日金曜日

食事療法、カロリス?それともローカーボ?


サーチュイン遺伝子、PPARγなど基礎医学的な部分も明らかになってきているが、カロリー制限と糖質制限、どちらが優れたダイエットなのかは、controversialである。

カロリー制限(食品交換表)

  • 摂取カロリー=標準体重×仕事量(軽労作25-30、中等度労作30-35、重労働35-)
  • 80kcal=1単位、つまり炭水化物、タンパク質は80gで1単位、脂質は9gで1単位。
  • ご飯1膳、りんご1個、バナナ1本が1単位。
  • 1コメ、2ニホンナシ、3秋刀魚、4ヨーグルト、5胡麻油、6緑野菜

糖質制限(カーボカウント)

  • まずは、定義:糖類<糖質<炭水化物。アサヒビールのサイトを参照。
  • Ⅰ型糖尿病では糖質1gで血糖5㎎/dl上昇、Ⅱ型糖尿病では糖質1gで血糖3㎎/dl上昇。
実際、同じ食事を一生続けるなんてのは、非現実的。その方の生活、仕事に合わせて、極端に陥ることなく、それぞれのよいところを組み合わせて指導するというのが落とし所。


参照

2013年6月27日木曜日

オピオイドローテーション

右掲本は、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2010年版)」としてオンライン公開されている。
などの薬が、今後どのような位置づけになっていくのであろうか。楽しみである。

WHOの除痛ラダーとして有名な非オピオイド、弱オピオイド、強オピオイドと3段階の一段目の非オピオイドの代表薬であるアセトアミノフェンも容量拡大になっている。オピオイドを使用していて、充分に効果があったのに効果が減弱してきた場合、耐え難い副作用の出現で、オピオイド・ローテーションが必要になる場合がある。ガイドラインの換算表に応じて投与量を決め、下記の点にも注意を払う必要がある。
  • オキシコドン、フェンタニルからモルヒネに変更する場合、腎機能障害のある患者では副作用を生じる場合があるため、少量を投与して十分に観察する。 
  • モルヒネからフェンタニルへの変更では腸蠕動の亢進が起こることが多いため、緩下薬の減量などが必要なことがある。

2013年6月26日水曜日

片頭痛診断メモ

有病率の高い病気なのだが、みなさん、脳外科などへまず行かれるのか、一般医のところで診る機会は意外に少ない。ゴッホの「星月夜」とか、芥川龍之介の「歯車」とかで前兆の閃輝暗点(Scintillating Scotoma)が描かれている。(下の動画も参照してください。)


このように特徴的な症状があれば診断は困難ではないのですが、前兆のない片頭痛は以下の「5, 4, 3, 2, 1基準」で診断される。

  • 5回以上の発作 
  • 4時間から3日に渡る発症持続 
  • 拍動性(Pulsating)、片側だけの発症(Unilateral)、中程度から激しい(Moderate or severe)程度の痛み、日常的な身体動作の回避やそれによる症状悪化(Aggravation by or causing Avoidance of routine physical Activity)のPUMAの4項目うち2つ以上当てはまる 。
  • 吐き気(Nausea)や嘔吐(Vomiting)、羞明(Photophobia)、音声恐怖(Phonophobia)のうち1つ以上当てはまる 。

"Pulsating, duration of 4–72 hOurs, Unilateral, Nausea, Disabling"の略であるPOUNDingという簡略した記憶法もある。上の5つの基準のうち4つが合致した場合、その片頭痛の診断における陽性尤度比は24となる。頭痛の経過を判定するには、頭痛ノートが有用だが、スマホが普及した現在、例えば、株式会社プラスアールで開発したアプリなども便利である。

参照

2013年6月25日火曜日

ワクチンについて

右掲本では、予防接種に関し、丸々一章を割いて詳しく説明している。恥ずかしながら、莢膜多糖体の免疫原性は2歳未満で弱いことなど、はじめて知った。発達免疫学について教科書を読み直さなければ…他にも、効果や副反応にはじまり、スケジュールがずれたときの対応、保存方法など痒いところに手が届いた記述があるので参照して欲しい。

ここでは、本当に基本的なところを確認しておく。まず、スケジュールに関しては、下記のリンクが有用。


さらに、何が生ワクチンということも大切。次のワクチンまで空けなければならない期間や接種回数が異なってくるからだ。空ける期間に関しては、不活化ワクチンの場合1週間なのに対し、生ワクチンの場合4週間となる。生ワクチンの語呂合わせ例を示す。
憖っか(なまじっか)な風水マシン欠格ポリを追う。
生・耳下・風・水・麻疹・結核・ポリオ・黄
参照:2012年改訂版保育所における感染症対策ガイドライン

2013年6月24日月曜日

主治医意見書

特定疾患一覧
  1. がん末期
  2. 関節リウマチ
  3. 筋萎縮性側索硬化症
  4. 後縦靱帯骨化症
  5. 骨折を伴う骨粗鬆症
  6. 初老期における認知症
  7. パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、パーキンソン病)
  8. 脊髄小脳変性症
  9. 脊柱管狭窄症
  10. 早老症
  11. 多系統萎縮症
  12. 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  13. 脳血管疾患
  14. 閉塞性動脈硬化症
  15. 慢性閉塞性肺疾患
  16. 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準
ランク J:何らかの障害等を有するが、日常生活はほぼ自立しており独力で外出する
1.交通機関等を利用して外出する
2.隣近所へなら外出する
ランク A:屋内での生活は概ね自立しているが、介助なしには外出しない
1.介助により外出し、日中はほとんどベッドから離れて生活する
2.外出の頻度が少なく、日中も寝たり起きたりの生活をしている
ランク B:屋内での生活は何らかの介助を要し、日中もベッド上での生活が主体であるが、座位を保つ
1.車いす(wheelchair)に移乗し、食事、排泄はベッドから離れて行う
2.介助により車いすに移乗する
ランク C:1日中ベッド上で過ごし、排泄、食事、着替において介助を要する
1.自力で寝返り(roll-over)をうつ
2.自力では寝返りもうたない

認知症高齢者の日常生活自立度判定基準
ランク Ⅰ :何らかの認知症 を有するが、日常 生活は家庭内及 び社会的にほぼ 自立している。 在宅生活が基本であり、一人暮らしも可能である。相談、指導等を 実施することにより、症状の改善や進行の阻止を図る。 具体的なサービスの例としては、家族等への指導を含む訪問指導や 健康相談がある。また、本人の友人づくり、生きがいづくり等心身の 活動の機会づくりにも留意する。
ランク Ⅱ :日常生活に支 障を来たすよう な症状・行動や 意思疎通の困難 さが多少見られ ても、誰かが注意 していれば自立 できる。
Ⅱa 家庭外で上記 Ⅱの状態がみら れる。 たびたび道に迷うとか、買 物や事務、金銭管理等それま でできたことにミスが目立つ 等
Ⅱb 家庭内でも上 記Ⅱの状態がみ られる。 服薬管理ができない、電話 の応対や訪問者との対応等一 人で留守番ができない等 在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難な場合もあるので、訪 問指導を実施したり、日中の在宅サービスを利用することにより、在 宅生活の支援と症状の改善及び進行の阻止を図る。 具体的なサービスの例としては、訪問指導による療養方法等の指導、 訪問リハビリテーション、デイケア等を利用したリハビリテーション、 毎日通所型をはじめとしたデイサービスや日常生活支援のためのホー ムヘルプサービス等がある。
ランク Ⅲ :日常生活に支 障を来たすよう な症状・行動や 意思疎通の困難 さが見られ、介護 を必要とする。
Ⅲa 日中を中心と して上記Ⅲの状 態が見られる。 着替え、食事、排便、排尿 が上手にできない、時間がか かる。 やたらに物を口に入れる、 物を拾い集める、徘徊、失禁、 大声、奇声をあげる、火の不 始末、不潔行為、性的異常行 為等 日常生活に支障を来たすような行動や意思疎通の困難さがランクⅡ より重度となり、介護が必要となる状態である。「ときどき」とはどの くらいの頻度を指すかについては、症状・行動の種類等により異なる ので一概には決められないが、一時も目を離せない状態ではない。 在宅生活が基本であるが、一人暮らしは困難であるので、訪問指導 や、夜間の利用も含めた在宅サービスを利用しこれらのサービスを組 み合わせることによる在宅での対応を図る。 具体的なサービスの例としては、訪問指導、訪問看護、訪問リハビ リテーション、ホームヘルプサービス、デイケア・デイサービス、症 状・行動が出現する時間帯を考慮したナイトケア等を含むショートス テイ等の在宅サービスがあり、これらを組み合わせて利用する。
Ⅲb 夜間を中心と して上記Ⅲの状 態が見られる。 ランクⅢa に同じ
ランク Ⅳ :日常生活に支 障を来たすよう な症状・行動や 意思疎通の困難 さが頻繁に見ら れ、常に介護を必 要とする。 ランクⅢに同じ 常に目を離すことができない状態である。症状・行動はランクⅢと 同じであるが、頻度の違いにより区分される。 家族の介護力等の在宅基盤の強弱により在宅サービスを利用しなが ら在宅生活を続けるか、または特別養護老人ホーム・老人保健施設等 の施設サービスを利用するかを選択する。施設サービスを選択する場 合には、施設の特徴を踏まえた選択を行う。
ランク M 著しい精神症 状や周辺症状あ るいは重篤な身 体疾患が見られ、 専門医療を必要 とする。 せん妄、妄想、興奮、自傷・ 他害等の精神症状や精神症状 に起因する周辺症状が継続す る状態等 ランクⅠ~Ⅳと判定されていた高齢者が、精神病院や認知症専門棟 を有する老人保健施設等での治療が必要となったり、重篤な身体疾患 が見られ老人病院等での治療が必要となった状態である。専門医療機 関を受診するよう勧める必要がある。

参考:主治医意見書記入の手引き

2013年6月7日金曜日

【本】東大がつくった高齢社会の教科書

タイトルに敢えて「東大が作った」という言葉を入れることで、それに誘われる読者層の獲得しようとしたことが想像される。しかし、その内容はいたって硬派。幅広い人に真剣に高齢社会を考えて欲しいという執筆者の危機感が感じられる。この本を教科書とした第一回高齢社会検定試験の開催も、そのような危機感からくるものでしょうか。

具体的な本の紹介については、車輪の再発明は避けて、目次は新元社のサイトを、書評については、ニッセイ基礎研究所の発行の解説をご覧ください。

蛇足ながら、個人的な感想を付け加えると、各医療機関が患者としての高齢者のみならず、地域社会にアプローチする部門及びそのための資源(人材、予算)の投入が早急に必要であろうということ。