2011年6月21日火曜日

【番外】かぜの科学

保育士の専門学校での講義のネタを仕入れるために読んだ次第。人は1日に平均4回鼻に手をやるとか、飛行機に乗ると1週間以内に20%の確率で風邪をひくとかいうトリビアが満載。結論は、風邪の確実な予防法や治療法はないということなのだが、一気にそう言ってしまっては身も蓋もない。そこに到るまでに、英国のCCU(Common Cold Unit)での実験を紹介し、可能な限りの予防法を提案し、古今東西の治療法を俎上に載せている。商業主義の薬品に対しては遠慮無くその有害性を指摘し、抗菌薬の無効性は繰り返し強調されている。我々の生命がDancing Matrixのなかで進化を遂げてきたことや害を与えずに罹患期間を短く効果のある治療法として介護者の愛情を挙げてある点、巻末にある文筆家の風邪に関するユーモアあふれる名言などは、その結論にもかかわらず、読後も悲観的にならずに済む工夫です。巻末には、詳しい引用元を示した原注も訳されており、医療者にも役に立つ一冊です。
日本には、一般の人と専門家をとりもち、専門家も唸らせるジャーナリズムってのが、皆無に近い、需要が先か、供給が先かっていう問題はあるが。そんな中で本書が訳されたことは、科学に対する彼此の社会の差を実感する意味でも意義深いと思う。連綿としたローマ時代からの科学的思考の蓄積を読むと、その昔、ナウマン教授が日本人の西洋科学の吸収を"die kritiklose Nachahmung"(無批判な模倣)と指摘したことも、冷静に頷けるような気がするのであります。

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