2009年11月26日木曜日

過活動膀胱診断ガイドライン

今回はOAB(OverActive Bladder)のガイドラインの勉強会。資料は下記の本。
大鵬薬品のOAB.jpに上手くまとまっているので、レクチャーして頂いた先生には申し訳ないが、レジメはこれでおしまい。

2009年11月11日水曜日

中毒のいろいろ


ケース1:テングダケ
公園で採った幻覚キノコ食べ、一時意識不明 北海道 2008年9月9日産経新聞

 北海道は9日、札幌市厚別区内の公園で採った毒キノコのテングタケを食べた北広島市の70代の男性が一時意識不明となる食中毒を起こしたと発表した。男性は現在も入院中だが、意識は回復し快方に向かっているという。
 道食品衛生課によると、男性は6日、公園の脇に生えていたテングタケを採り、自宅で油いためにして食べた。約30分後に腹痛や下痢などを起こし、丸1日、意識不明になったという。
 テングタケは夏から秋にかけて発生する毒キノコで、食べると幻覚などの症状が出る。道内では平成17年9月、岩内町で別の食用キノコと間違えて食べた3人が嘔吐(おうと)などの食中毒を起こした。
 道は「キノコ狩りの季節だが、知らないキノコは食べないでほしい」と注意を呼び掛けている。
平成1年から平成20年8月までの道の統計では、ツキヨタケ,クサウラベニタケ,テングタケの3種で3分の2を占めるが、死亡例はない。死亡例は、タマゴタケモドキの4例中3例。数多いキノコについては、下記のように食べてから発症までの時間と症状で下記の5群に分類しておくと便利。
第1群:食後6時間以上で、激しい下痢・腹痛、肝・腎臓障害をもたらす致死性中毒
アマニチンやファロイジンンなどの環状ペプチドによる中毒: ドクツルタケ、シロタマゴテングタケ、タマシロオニタケ、タマゴテングタケ、タマゴタケモドキ、コテングタケモドキ 、フクロツルタケ、ドクアジロガサ(コレラタケ)、ニセクロハツ
モノメチルヒドラジンによる中毒: シャグマアミガサタケなど
第2群:食後20分~2時間後で、主に悪酔い症状・発汗などの自律神経症状
コプリンによりアンタビュース様中毒: ヒトヨタケ、ホテイシメジ
ムスカリン中毒: アセタケ類とカヤタケ類
第3群:食後20分~2時間後で、幻覚・精神錯乱状態などの中枢神経症状
イボテン酸-ムッシモ-ルによる精神錯乱(せん妄)状態: ベニテングタケ、テングタケ
シロシビン-シロシンによる幻覚を伴った中毒: ヒカゲシビレタケ、オオシビレタケ、センボンサイギョウガサ、アオゾメヒカゲタケ、ワライタケ
第4群:食後30分~ 3時間で、消化器症状
クサウラベニタケ、ツキヨタケ、カキシメジ、マツシメジ、コガネホウキタケ、ハナホウキタケ、ニガクリタケ、ドクベニタケ、ドクヤマドリ、オオワカフサタケ、オオシロカラカサタケ、ドクカラカサタケ、オオワライタケ、ニセショウロ類など。
第5群:食後4~5日で,手足の先,ペニスのみが赤く腫れ,激痛が1か月以上持続 
ドクササコ Clitocybe acromelalga
ケース2:ツブ
72歳女性、買ってきたツブをバーベキューをしたときに焼いて、そのまま食べた。めまい、嘔気を訴え、居合わせた知人に連れられ、来院。
エゾバイ科のものは唾液腺に弱い毒(テトラミン)を含むため、唾液腺を除かないまま多量に食べると中毒してしまう。命に関わることはまずないが、通常30分から2時間後に、副交感神経刺激と運動神経末梢麻痺、たとえば酒に酔ったような症状、視力低下、散瞳、頻脈等を起こすので注意が必要である。テトラミンは熱に強く、水溶性。調理しても毒性は弱まらず、他の可食部や煮汁にも移行する。映画武士の一分では、毒味役の三村新之丞(木村拓哉)が失明するが、これはツブ貝の毒にあたったことになっている。

ケース3:スイセン
スイセンをニラと間違え食中毒症状 2006年5月16日日刊スポーツ

 北海道食品衛生課は16日、北海道美瑛町で、スイセンをニラと間違えて食べた女性9人が、嘔吐や頭痛などの食中毒症状を訴え一時入院したと発表した。全員ほぼ回復しているという。
 同課によると15日午前6時半ごろ、美瑛町にある会社の寮の庭で栽培していたニラの近くにあったスイセンを、20代から30代の女性従業員が卵とじスープにして食べた。
 スイセンは球根の部分以外はニラと似ている。スイセンにはリコリンという腹痛や下痢などの中毒症状を引き起こす物質が含まれており、道が注意を呼びかけた。
中毒は初期に強い嘔吐があり摂取物の大半が吐き出されるため症状が重篤に到ることは稀であるが、鱗茎を浅葱(アサツキ)と間違えて食べ死亡した例がある。有毒植物で毒成分はリコリンとシュウ酸カルシウムなど。全草が有毒だが、鱗茎に特に毒成分が多い。スイセンの致死量は10gである。食中毒症状と接触性皮膚炎症状を起こす。葉がニラととてもよく似ており、ニラと間違えて食べ中毒症状を起こすという事件が時々報告・報道される。ニラとの大きな違いは、葉からの臭いが無いことと、鱗茎(球根)があること。

ケース4:アセトアミノフェン
「救急外来でのキケンな一言―トラブル事例に学ぶ診療のピットフォールとTips」から

23歳女性がアルコールと感冒薬を服用して自殺を図った。感冒薬の内服量からアセトアミノフェンは最大で8gと推定された。受診時の血液検査では肝機能障害も認められなかった。
受診時は、軽度の意識障害を認めていたが、輸液のみで意識は清明に回復し、症状は軽度の嘔気を認めるのみ、「もう二度とこんなことをしません」と後悔の言葉を述べ帰宅を希望した。研修医は「今は元気そうなので問題ないだろう」と判断し、制吐薬を処方し両親に慎重な観察をお願いして帰宅させた。3日後に全身倦怠感を主訴に再診した高度の肝機能障害を呈していた。
日本中毒情報センターでは、年間約600件のアセトアミノフェンに係わる誤飲や中毒の問い合わせを受け、その約1割が、自殺目的などの大量摂取の問い合わせだそうです。解毒薬は、千寿製薬のアセチルシステイン内用液 17.6%「センジュ」)がある。アセトアミノフェン過量摂取後24時間以内で、1)血漿中アセトアミノフェン濃度が、アセチルシステイン投与推奨ラインよりも上の患者、あるいは 2)血漿中アセトアミノフェン濃度が測定されていない場合、推定アセトアミノフェン摂取量が成人で7.5g以上、小児で140mg/kg以上の患者、アセチルシステインを初回に140mg/kg、その4時間後から70mg/kgを4時間毎に17回、経口あるいは経胃・経十二指腸投与する。摂取後24〜48 時間における予後不良の指標には,適切な蘇生法後にpH <> 3,血清クレアチニン値2.6以上,肝性脳症の昏睡度Ⅲ(錯乱および傾眠)またはⅣ(昏迷および昏睡),低血糖,血小板減少などがある。

 いづれの症例もルーチンの問診では、原因を聞き洩らす可能性がある。そういう意味で、中毒は、患者の語りに耳を傾けることが安全な医療に直結する分野であると言えるかもしれない。

2009年10月29日木曜日

褥瘡とラップ療法

今回は、「メディカルはこだて」誌に9月、10月号にわたり「ラップ療法」に関するインタビュー記事が掲載されたされた 函館稜北病院3病棟医長 横倉基先生の講演。

ラップ療法の歴史
  • 1996年 鳥谷部俊一医師が「ラップ療法」を考案。
  • 1997年 上記を全国自治体病院学会で発表。
  • 2001年 鳥谷部俊一医師が「褥創(褥瘡)のラップ療法」を、夏井睦医師が「新しい創傷治療」を開設。
  • 2004年 横倉基医師が、道南勤医協函館稜北病院で「ラップ療法」を導入。
  • 2005年 鳥谷部俊一医師は、開放性湿潤療法"Open Wet-dressing Therapy (OpWT)"と改称。
褥瘡の予防
  • 簡易体圧測定器「セロ」の紹介
  • 体交の必要性
褥瘡の評価
創傷被覆材
  • 食品用ラップ
  • ポリウレタンフィルム
  • 浸出液が多い場合は、ポリウレタンフィルムに孔を開け、紙おむつに貼ったり、水切り用ポリエチレン袋に平紙おむつを入れたりして使用。
難治例
  • ASO
  • 糖尿病性壊疽
  • 血管炎

2009年9月9日水曜日

高所医学の概要

【キーワード】 馴化(acclimation)、AMS、HAPE、HACE、ダイアモックス、ガモウバッグ
【高所環境】
高所の分類
  • Extreme altitude >5,500: エベレスト山頂 8,848m
  • Very high altitude 3,500-5,500: 富士山頂 3,776m この高度では、急な登山で高山病の症状はほぼ必発、10人に1人位は重症化。
  • Moderate altitude 2,000-3,500: 南米諸国の首都(ボリビアのLa Paz 3,200m、エクアドルのQuito 2,800m、コロンビアのBogota 2,660mなど)、富士山八合目 3,100m、旭岳 2,290m この高度では、急な登山で4、5人に1人で高山病の症状が出る。
  • High altitude >1,500
「低酸素」
馴化が起こらなかった場合、平地で95mmHg くらいだった酸素分圧が、3000m を越すと半分以下に、5000m で3 分の1、エベレスト頂上ではマイナスになってしまいます。きちんと馴化すると、大体平地と比較して、富士山で半分、エベレストBC で1/3、エベレスト頂上で1/4 になっています。日常臨床で慢性呼吸不全の患者さんがいかに低酸素に強いかは、経験があると思う。
「寒さ」
100m 登ると気温は0.65℃低下する。4000m 登れば26℃下がる。また風は寒さを増幅する。T=t-4×√v(リンケの体感温度)。実際、先日の大雪山系遭難の死亡者はみな凍死であった。人は、体温が奪われると、全身の生化学反応が落ちる。筋肉は硬直し協調性を失う。心臓の刺激伝達は失調し心筋の収縮力は落ち心拍出量が低下する。寒冷に伴う利尿による循環血液量の低下もあいまって組織とくに脳への酸素供給が阻害され、すべての脳の神経活動の低下がおこる。
「乾燥・脱水」
飽和水蒸気圧は、温度で決まる。20 ゚C の飽和水蒸気圧は17mmHg である。ところが-20 ゚C での飽和水蒸気圧は1mmHg。空気はたった1mmHg 分の水分しか含めないのである。相対的湿度はどうであれ、高所の空気は常に乾いている。高所ではだれもが呼吸が大きく早くなる。高度5500m でのほんの軽い運動でも、呼吸によって肺から失われる水分は一時間あたり200ml と推定される。発汗による水分喪失も乾燥した空気のもとでは大きくなる。急激な水分喪失による脱水は血液を濃縮させ、血液を固まり易くする。高所での脱水では地上での場合ほど強い口渇感をもたらすことがないので、登山者は意識して水分摂取につとめる必要がある。尿量を十分(1.5L/日)保つことも重要なので、高所登山者は一日最低3~4Lの水分の摂取が必要である。
「日射・紫外線・宇宙線」
空気の層が薄いこと、空気中の水蒸気量が少ないこと、いずれも太陽光線の空気中での散乱量を減らす。標高5790m の晴れた日の場合では、人体が吸収する日射量は海抜0mに届く日射量に比べ50%増加となっていた(Ward,1975)。とくに短波長の紫外線領域に影響が強くでやすい。地表面の反射も重要な要素である。通常では地表面の反射率は20%に満たないが、高所の雪や氷河では90%に達することがある。皮膚・目が障害を受けやすい。光学的遮蔽物(帽子やサングラス)は必携である。同じ理由で電離放射線被爆も増えると考えられている。
【高山病】

分類
a.急性高山病(AMS; Acute Mountain Sickness):新しい高度に到達した際に起こる症状。頭痛、及び以下の症状のうち少なくとも1つを伴う。
  • 消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐)
  • 倦怠感または虚脱感
  • めまいまたはもうろう感
  • 睡眠障害
b.高地脳浮腫(HACE; High Altitude Cerebral Edema):重症急性高山病の最終段階と考えられる。急性高山病患者に精神状態の変化か運動失調を認める場合。急性高山病症状がない時は両者とも認める場合。

c.高地肺水腫(HAPE; High Altitude Pulmonary Edema)
以下のうち少なくとも2つの症状がある。
  • 安静時呼吸困難
  • 虚脱感
  • 運動能力低下
  • 胸部圧迫感または充満感。
また以下のうち少なくとも2つの徴候がある。
  • 少なくとも一肺野でのラ音または笛声音
  • 中心性チアノーゼ
  • 頻呼吸
  • 頻脈。
予防・対策
 酸素飽和度モニター、症状チェックシートなどで客観的なフォローをすることが大切です。
 軽い頭痛程度なら、アセトアミノフェンやブルフェンなどの鎮痛剤を服用する程度で済みます。注意して行動を継続します。頭痛に他の症状が加わりかつ酸素飽和度SpO2 が各高度での平均値をかなり下回るようでしたらダイアモックス(250mg)を1日朝夕1錠づつ服用すると効果的です。ダイアモックスは脳の呼吸中枢を刺激する作用があります。症状が消えSpO2 が改善しても1-2 日間は継続して服薬します。ゆっくりした日程の場合でも、高山病の既往のある方、レスキュー活動の場合や飛行機やヘリで一気に4000m 近くに到達する場合などやむを得ずゆっくりした日程が取れない場合は、まだ低い高度にいる出発当日の朝からダイアモックスを予防的に服薬しても構いません。脱水を防ぐために適切な摂水は大切です。血栓予防の少量のアスピリン服用も考えます。症状があるうちは新しく高度を稼ぐことは禁物、休養を兼ねて停滞です。
 急性の高山病が悪化して脳浮腫や肺水腫に進んでしまった場合は、早急に下に降ろさなければなりません。下降手段(ヘリコプターなど)を待っている間に手をこまねいていてはいけません。大流量酸素を吸入させ、ガモウバッグなどの携帯型加圧バッグを使用します。脳浮腫にはデキサメサゾン、肺水腫にはニフェジピンが有効です。「三浦豪太さん、奇跡の生還だった
参考図書

2009年8月26日水曜日

新型インフルエンザとその対策について

全日本民医連学習会での国立感染症研究所感染症情報センターの安井良則氏の講演の伝達勉強会でした。要点を箇条書きに記します。
  • 飛沫感染のため1~2mの濃厚接触により感染が成立する。
  • 医療従事者では、双方マスクなしでの会話、食事をともにすることがレベルIの濃厚接触
  • 臨床症状では、季節型インフルエンザとの区別はできない。
  • 潜伏期間は、2~4日間
  • 迅速検査は相当偽陰性が多い。(NEJM Volume 361:728-729 August 13, 2009 Number 7)
  • 函館の場合定点医療機関11箇所、医療機関数の半分にインフルエンザ患者が受信すると仮定すると、定点当たり報告数40で、実患者は、5,500人いることになる。
  • 全粒子型ワクチンは、早く作れ、効果は高いが、Guillain Barre症候群の副作用がある。
  • スプリット型ワクチンは、Guillain Barre症候群の副作用はないが、ブースター効果はあるものの、プライミング効果に乏しく、製造に手間暇がかかる。
…と書いてきて、静岡がんセンターの大曲貴夫先生の感染症ブログに素晴らしいレビューが投稿されていることを見つけてしまいました。
 社会防衛的な視点での個人的な考えなのですが、新型、季節性によらずインフルエンザ流行期には、発熱フローチャートでタミフルを処方を受けられ、同時に1週間の社会的活動の自粛が受け入れられ、それによる経済的・社会的な損失が生じないような環境の構築が急務だと思います。