【高所環境】
高所の分類
- Extreme altitude >5,500: エベレスト山頂 8,848m
- Very high altitude 3,500-5,500: 富士山頂 3,776m この高度では、急な登山で高山病の症状はほぼ必発、10人に1人位は重症化。
- Moderate altitude 2,000-3,500: 南米諸国の首都(ボリビアのLa Paz 3,200m、エクアドルのQuito 2,800m、コロンビアのBogota 2,660mなど)、富士山八合目 3,100m、旭岳 2,290m この高度では、急な登山で4、5人に1人で高山病の症状が出る。
- High altitude >1,500
馴化が起こらなかった場合、平地で95mmHg くらいだった酸素分圧が、3000m を越すと半分以下に、5000m で3 分の1、エベレスト頂上ではマイナスになってしまいます。きちんと馴化すると、大体平地と比較して、富士山で半分、エベレストBC で1/3、エベレスト頂上で1/4 になっています。日常臨床で慢性呼吸不全の患者さんがいかに低酸素に強いかは、経験があると思う。「寒さ」
100m 登ると気温は0.65℃低下する。4000m 登れば26℃下がる。また風は寒さを増幅する。T=t-4×√v(リンケの体感温度)。実際、先日の大雪山系遭難の死亡者はみな凍死であった。人は、体温が奪われると、全身の生化学反応が落ちる。筋肉は硬直し協調性を失う。心臓の刺激伝達は失調し心筋の収縮力は落ち心拍出量が低下する。寒冷に伴う利尿による循環血液量の低下もあいまって組織とくに脳への酸素供給が阻害され、すべての脳の神経活動の低下がおこる。「乾燥・脱水」
飽和水蒸気圧は、温度で決まる。20 ゚C の飽和水蒸気圧は17mmHg である。ところが-20 ゚C での飽和水蒸気圧は1mmHg。空気はたった1mmHg 分の水分しか含めないのである。相対的湿度はどうであれ、高所の空気は常に乾いている。高所ではだれもが呼吸が大きく早くなる。高度5500m でのほんの軽い運動でも、呼吸によって肺から失われる水分は一時間あたり200ml と推定される。発汗による水分喪失も乾燥した空気のもとでは大きくなる。急激な水分喪失による脱水は血液を濃縮させ、血液を固まり易くする。高所での脱水では地上での場合ほど強い口渇感をもたらすことがないので、登山者は意識して水分摂取につとめる必要がある。尿量を十分(1.5L/日)保つことも重要なので、高所登山者は一日最低3~4Lの水分の摂取が必要である。「日射・紫外線・宇宙線」
空気の層が薄いこと、空気中の水蒸気量が少ないこと、いずれも太陽光線の空気中での散乱量を減らす。標高5790m の晴れた日の場合では、人体が吸収する日射量は海抜0mに届く日射量に比べ50%増加となっていた(Ward,1975)。とくに短波長の紫外線領域に影響が強くでやすい。地表面の反射も重要な要素である。通常では地表面の反射率は20%に満たないが、高所の雪や氷河では90%に達することがある。皮膚・目が障害を受けやすい。光学的遮蔽物(帽子やサングラス)は必携である。同じ理由で電離放射線被爆も増えると考えられている。【高山病】
分類
a.急性高山病(AMS; Acute Mountain Sickness):新しい高度に到達した際に起こる症状。頭痛、及び以下の症状のうち少なくとも1つを伴う。
- 消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐)
- 倦怠感または虚脱感
- めまいまたはもうろう感
- 睡眠障害
c.高地肺水腫(HAPE; High Altitude Pulmonary Edema)
以下のうち少なくとも2つの症状がある。
- 安静時呼吸困難
- 咳
- 虚脱感
- 運動能力低下
- 胸部圧迫感または充満感。
- 少なくとも一肺野でのラ音または笛声音
- 中心性チアノーゼ
- 頻呼吸
- 頻脈。
酸素飽和度モニター、症状チェックシートなどで客観的なフォローをすることが大切です。
軽い頭痛程度なら、アセトアミノフェンやブルフェンなどの鎮痛剤を服用する程度で済みます。注意して行動を継続します。頭痛に他の症状が加わりかつ酸素飽和度SpO2 が各高度での平均値をかなり下回るようでしたらダイアモックス(250mg)を1日朝夕1錠づつ服用すると効果的です。ダイアモックスは脳の呼吸中枢を刺激する作用があります。症状が消えSpO2 が改善しても1-2 日間は継続して服薬します。ゆっくりした日程の場合でも、高山病の既往のある方、レスキュー活動の場合や飛行機やヘリで一気に4000m 近くに到達する場合などやむを得ずゆっくりした日程が取れない場合は、まだ低い高度にいる出発当日の朝からダイアモックスを予防的に服薬しても構いません。脱水を防ぐために適切な摂水は大切です。血栓予防の少量のアスピリン服用も考えます。症状があるうちは新しく高度を稼ぐことは禁物、休養を兼ねて停滞です。
急性の高山病が悪化して脳浮腫や肺水腫に進んでしまった場合は、早急に下に降ろさなければなりません。下降手段(ヘリコプターなど)を待っている間に手をこまねいていてはいけません。大流量酸素を吸入させ、ガモウバッグなどの携帯型加圧バッグを使用します。脳浮腫にはデキサメサゾン、肺水腫にはニフェジピンが有効です。「三浦豪太さん、奇跡の生還だった」
参考図書
- 旅行医学質問箱 日本旅行医学会編
- Travel Medicine Jay S. Keystone MD
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