2012年6月13日水曜日

医学における社会ネットワーク分析

WONCA APRカンファレンスでのポスターの披露をさせて頂いた。その前振りとして、簡単に社会ネットワーク分析について説明。ここでは、Nicholas A. Christakis教授のTEDの講演を貼っておきます。



論文の紹介:肥満や喫煙が感染するということで、教授の著書の日本語訳「つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 」が話題になりました。同書でも引用されておりますが、NEJMで発表されたものを挙げておきます。
アプリケーションの紹介
参考図書の紹介:日本の研究者が一般向けに書いた易しい入門書も出ています。
実際に、ネットワークデータを使って遊んでみたい向きには、Facebook上のアプリ、netvizzやNameGenDevを使って、データをダウンロードし、上記で紹介したアプリケーションに取り込んで、自分の友人のネットワークを視覚化してみるとインパクトがあります。
Gephiを使った漢方薬製剤のネットワークの視覚化
本題は、WONCA APRカンファレンスでの発表だが、上に紹介したGephiを使って、ツムラの漢方薬128製剤のネットワークグラフを作成しました。エッジは共通する生薬です。modularityでグループ分けし、ローカルクラスタリング係数でノードを並べ替えて、レイアウトしました。みっともない英語を晒すのも気が引けるので、結論のグラフだけ下記に示します。

地下鉄の路線図のようなグラフですが、大雑把に同じような作用の薬剤が同じ路線に配置され、その群で特徴のある薬剤がターミナルに位置するように配置されています。主催国が韓国だったので、四象医学に敬意を表してちょっと無理して4群にまとめたこと、共通生薬の個数だけを取り上げて量や種を無視していることなどから実際の漢方理論との齟齬は生じているが、ビジュアルに薬の傾向を把握できるので、ある程度の漢方理論を学んだあとのリファレンスとしては有用である。さらに、レイアウトを変えたグラフもこちらに用意した。

2012年4月25日水曜日

【番外】 耳学問2.0 - Twitterからノイズを除去する3つの方法

しっかりとした統計は知る由もなく、医師の情報収集のかなりの部分を耳学問(knowledge by hearsay)が占めている。医局での同僚や先輩との会話、MRの情報提供、学会や勉強会での講演などなど。最近は、Twitterなどに参加する医師の増加により、ネット上のつぶやきから学べる機会が増えてきた。正確には、視るので耳学問とは言えないが、つぶやきということで、ご勘弁。Twitterのタイムラインだけではノイズが多いことは、日々ご実感のとおり。そこで、Twitterから如何にノイズ除去をするかということが、今日のテーマだ。要するに、「検索結果をフィード化してRSSリーダでまとめ読みする。」というところが肝になる。

1. Twitterのキーワード検索のRSSを利用する。
意外と、"http://search.twitter.com/search.atom?q=keyword"でRSSフィードが取得できることは、知られていない。
2. Togetterを利用する。
Togetterは、タイムラインでは見通しの悪い議論をまとめることが出来るサービス。自分でまとめなくとも人のまとめを眺めるだけでも参考になる。公式のRSSフィードはないが、DailyFeedを利用した新着情報のRSSフィード "http://dailyfeed.jp/feed/4561.rss" を登録しておくと便利。
3. Crowsnestの利用
Crowsnestは、Twitter をベースとして、公共性や注目度の高いニュ ースをまとめてくれるサービス、RSSフィードも配信してくれていて便利。
以上のフィードをリーダに登録することで、自分にとって重要な情報は繰り返し、リーダに現れることになり、見逃しは少なくなる。しかし、検索をもとにしたフィードは、自分の関心というバイアスがかかっており、世間とのズレを防ぐため、通常のニュースやジャーナルのフィード登録と併せて利用したほうがよいと思う。

2012年4月10日火曜日

【番外】トリカブトとニリンソウ

本日の函館新聞のトップ記事は、「トリカブト誤食による死亡事故」であった。亡くなられた方には、御冥福をお祈り申し上げます。トリカブトが含むアコニチンの有毒性は、漢方薬で使われる附子の修治や毒矢に使われる毒として、我々の文化に根付いて認識されているはずなのに、その取り違えは繰り返されてしまう。医療現場でも、似た名称の薬の誤投薬の事故などが後を絶たない。似たものは、間違え易いという当たり前の事実がある。推測するにダブルチェックの不在が、この様な悲劇を繰り返す根本となっているのであろう。ちなみに、トリカブトとニリンソウの区別は、根を掘って、その形を確認することが大切とのこと。根本を大切にする、実に示唆的である。

2012年1月26日木曜日

【番外】慢性下痢の鑑別疾患

先日診察した患者さんで慢性下痢症の方がいた。頭を過ぎったのが右記の本の冒頭の症例。15年間、30人以上の医者に見逃され、最終的にセリアックスプルーが判明した患者さんである。日本では稀なので、それはないにしても薬剤性のものを考慮し、1種類薬をやめて経過みることにした。昼休みに医局に戻って読んだ雑誌の記事にタイミングよく、慢性下痢の鑑別診断のニーモニックがあったので、それを紹介。

MuDdy ROAD TRAVEL with FAMILY
Milk and fluctose allergy / Drugs / Roentgen therapy / Operation-surgical / AIDS & Alcohol / DM / TRAVEL history / Irritable bowel / FAMILY history of IBD
薬剤性下痢の鑑別は、DATSuN
Diuretics / Anti-Acids & Anti-Arrhythmia / Theophylline / Softener / NSAIDS
食後下痢の鑑別、Post Breakfast Complaints with Sick stool
Pancreatobilliary disorder / Bacterial overgrowth / Celiac Sprue
夜中もあり、止まらない下痢は、24-7-365 at CT (ConnecticuT)
Carcinoids & Carcinoma, Adenoma / Thyroid imbalance

2012年1月11日水曜日

学習に必要な知恵はすべて学生のレポートから学んだ

大業なタイトルを掲げたが、類似タイトルの嚆矢の右掲本「人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ (河出文庫) 」に敬意を表した次第。今年度、保育福祉科の1,2年生に医学一般の講義をさせていただく機会を得た。評価として、それぞれ15コマの講義を通じての感想のレポートを課した。そこから、ちょっとした学習方法のコツを見出したので、紹介したい。(とは言っても、新しいことではなく、従来から言い古されていることなのではあるが…)
● 人は時間が経つと忘却する。実際、レポートでの論述は、講義前半のことよりも後半でのことのほうが多かった。しかし、これは仕方がないことで、だからこそ忘却を遅らせるための工夫が講義に必要とされる。
● エピソード記憶は以下のように関心や自己関与の度合いでランク付けされている。 実際、下記の順で論述内容が多かった。
  1. 体験(実習、家族、自分、友人)→全体的関与 
  2. 物語(ドラマ、漫画)→感情移入 
  3. ヒトゴト(講義、ニュース)→視覚・聴覚 
面白かったのは、ニュースやテレビの健康番組の論述が全くなかったこと。基本的に病気を持たない若い世代はそのような番組を視聴する機会は少なく、たまたま見たにせよ、記憶には残らないのであろう。テレビ番組では、むしろ医療ドラマのほうが、影響を与えているようだ。
● 講義では、物語、動画などによる疑似体験の工夫が必要。若月俊一先生が著書「村で病気とたたかう」でも「巡回診療に、演劇、紙芝居、指人形、映画などをもって行く」としており、健康教育における物語の重要性を説いている。実際、講義では、授業で紹介した下の動画に関するコメントが多かった。患者の物語を聴くだけではなく、患者に物語の文法で語りかけることの研究も今後必要になってくるのかもしれない。