2011年6月29日水曜日

Quality Indicator


今回は、第125回北海道診療情報管理研究会に参加された先生から、聖路加国際病院院長福井次矢先生の御講演「QIを用いた医療の質改善の試み」の報告でした。聖路加国際病院におけるQIの成果は発行され、Amazonでも入手でき、同病院のサイト "[医療の質]を測る"で公開されています。

医療の質:DonabedianのSPOモデルが1966年に提唱される。
  • Structure (resources and administration)
  • Process (culture and professional co-operation)
  • Outcome (competence development and goal achievement)
なかでもProcessが重視されてきて、1990年には「個人や集団を対象に行われる医療が、望ましい健康状態をもたらす可能性の高さ、その時々の専門知識に合致している度合い」と定義されるに至る。GuyattによりEBMの言葉が使われ始めるのが、1992年以降からだが、上記定義は、まさに、「EBM遵守度」と再定義されることになります。そしてその指標が、Quality Indicatorとなるわけです。例えば、日本病院会では下記の11項目をQI項目とした30施設の結果を公開しています。

  1. 患者満足度(外来患者)
  2. 患者満足度(入院患者)
  3. 死亡退院患者率
  4. 入院患者の転倒・転落発生率、損傷発生率
  5. 手術開始前1時間以内の予防的抗菌薬投与率
  6. 退院後6週間以内の緊急再入院率
  7. 予防可能であった可能性のある静脈血栓塞栓症の発生率、手術患者における入院中の静脈血栓塞栓症の発生率
  8. 褥瘡発生率
  9. 糖尿病患者の血糖コントロール、HbA1c<7.0% (HbA1c (JDS) <6.6%)
  10. 急性心筋梗塞患者のアスピリン投与率
  11. 手術患者における静脈血栓塞栓症の予防行為実施率

上記のように公開するだけでも、ホーソン効果、ベンチマーキングとしての効果などから医療の質の向上が期待できるが、さらには個人・組織の行動変容のための方略が必要となる。例えば、マニュアルの改訂、勉強会や研修会、フィードバック、P4P(pay-for-performance)など。しかし、ネガティブなP4Pは米国では医療現場に影を落としているらしい

2011年6月21日火曜日

【番外】かぜの科学

保育士の専門学校での講義のネタを仕入れるために読んだ次第。人は1日に平均4回鼻に手をやるとか、飛行機に乗ると1週間以内に20%の確率で風邪をひくとかいうトリビアが満載。結論は、風邪の確実な予防法や治療法はないということなのだが、一気にそう言ってしまっては身も蓋もない。そこに到るまでに、英国のCCU(Common Cold Unit)での実験を紹介し、可能な限りの予防法を提案し、古今東西の治療法を俎上に載せている。商業主義の薬品に対しては遠慮無くその有害性を指摘し、抗菌薬の無効性は繰り返し強調されている。我々の生命がDancing Matrixのなかで進化を遂げてきたことや害を与えずに罹患期間を短く効果のある治療法として介護者の愛情を挙げてある点、巻末にある文筆家の風邪に関するユーモアあふれる名言などは、その結論にもかかわらず、読後も悲観的にならずに済む工夫です。巻末には、詳しい引用元を示した原注も訳されており、医療者にも役に立つ一冊です。
日本には、一般の人と専門家をとりもち、専門家も唸らせるジャーナリズムってのが、皆無に近い、需要が先か、供給が先かっていう問題はあるが。そんな中で本書が訳されたことは、科学に対する彼此の社会の差を実感する意味でも意義深いと思う。連綿としたローマ時代からの科学的思考の蓄積を読むと、その昔、ナウマン教授が日本人の西洋科学の吸収を"die kritiklose Nachahmung"(無批判な模倣)と指摘したことも、冷静に頷けるような気がするのであります。

2011年6月14日火曜日

脱水症の診断と治療

【病因学】
  • 水不足、飲水行動が取れない、口渇がない
  • 環境(高温環境、航空機内*などの乾燥環境)
  • 疾患による発熱、嘔吐・下痢
*航空機内は、湿度が10%程度で、1時間あたりの不感蒸散80mlにもなる。

【診断】
小児の場合:
  • capillary refill test:LR+ 4.1、LR- 0.57
  • 涙液:LR+ 2.3、LR- 0.54
  • 全体の外観:LR+ 1.9、LR- 0.46
  • 眼球陥凹:LR+ 1.7、LR- 0.49
  • 粘膜・皮膚の湿潤性:LR+ 1.7、LR- 0.41
成人の場合:
  • 尿比重(USG)>1.020 :LR+ 11、LR- 0.09
  • capillary refill test:LR+ 6.9、LR- 0.7
  • 眼球陥凹:LR+ 3.4、LR- 0.5
  • 腋窩の乾燥:LR+ 2.8、LR- 0.6
  • 舌の乾燥*:LR+ 2.1、LR- 0.6
  • 口腔の乾燥:LR+ 2.0、LR- 0.3
  • 舌の縦皺:LR+ 2.0、LR- 0.3
  • tilt test(起立で脈拍が30回以上増加、但し臥位で2分間、立位で1分間以上経過して測定すること):LR+ 1.7、LR- 0.8
*漢方で五苓散をはじめとする水利薬の適応となる所見、舌の歯圧痕は軽い脱水の所見なのかもしれない。

【治療】
経口補水液(ORS)


既製品を利用

Na
ブドウ糖浸透圧
OS-1 50mEq/L
20mEq/L
2.5g/dl
270mOsm/L
アクアライトORS
35mEq/L
4.0g/dl
200mOsm/L
ソリタ-T顆粒3号
35mEq/L
3.42g/dl 
199mOsm/L
ソリタ-T顆粒2号
60mEq/L
1.6g/dl

スポーツドリンク500mlを半分に薄めたものに1gの塩を加える(塩1g=17mEq/L)

Naブドウ糖
アクエリアス
14.8mEq/L
4.7g/dl
307mOsm/L
ポカリスエット 
21mEq/L
6.7g/dl
323mOsm/L

完全自炊

Naブドウ糖浸透圧
WHO-ORS(1975年)*
90mEq/L
2.0g/dl 
311mOsm/L
WHO-ORS(2002年)**
75mEq/L
1.35g/dl
245mOsm/L
American Academy of Pediatrics
40~60
2.0~2.5
ESPGHAN***
60
1.6
240mOsm/kg
*コレラ(便中Na120mEq/L)を想定
**通常の胃腸炎(便中Na50mEq/L)を想定
***European society of Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition
具体的なレシピを下記に記す。

清潔な水1Lを確保する
  • 煮沸(熱いままPETボトルに入れないように注意)
  • 水を浄化する安くてよい方法は、清潔な透明の容器に水を入れて、直射日光に最低 6時間晒す。もしも曇り場合は、2日間晒す。
  • 緊急避難的に化学的な消毒の方法があり、手法としては、水1リットルに塩素剤(次亜塩素酸ナトリウム6%の製品。「ピューラックス」)を3滴入れ、よくかきまぜる。30分ほど放置してから使う。
上記に調味料のサ・シ・スを加味。
  • 砂糖(ショ糖) 40g大さじ4杯+小さじ1杯
  • 塩 3g小さじ3分の1
  • 酢として、100%グレープフルーツジュース、あるいはレモンジュースを好みに応じて30~100ml追加。(なけらばなくて構わないが、味の調節、クエン酸、カリウムの補充のために。)
参考
  • 小さじ=5cc、塩なら5g、砂糖なら3g相当(ペットボトルのキャップで代用可能)
  • 大さじ=15cc、塩なら15g、砂糖なら10g相当
  • 塩少々=親指と人差し指でつまんだ程度、小さじ1/8相当
  • ひとつまみ=親指と人差し指、中指でつまんだ程度、小さじ1/4相当
持続皮下注射
  • 腹壁や肋間の皮下に刺したプラスチック留置針から5~24時間で500-1000ml程度の補液をします。
  • 注射液のため少しむくみますが,時間をかければ吸収されます。
  • 等張液(血液と同じ濃さの注射液)であれば痛みは少なく副作用も最小限です。
点滴

Naブドウ糖浸透圧
生食
154mEq/L
0g/L
308mOsm/L
ソリタ1号液
90mEq/L
26g/L
324mOsm/L
ソリタ2号液
84mEq/L
32g/L
346mOsm/L
ソリタ3号液
35mEq/L
43g/L
309mOsm/L
ソリタ4号液
30mEq/L
43g/L
299mOsm/L
5%グル
0mEq/L
50g/L
278mOsm/L
生食は、点滴後、細胞内:細胞外組織:血管内=0:3:1で分布する。
5%グルは、点滴後、細胞内:細胞外組織:血管内=8:3:1で分布する。

【Take-home messages】
  1. ウイルス性胃腸炎に対する五苓散(NO17)の有用性
  2. NaCl 1g = 17mEq・・・塩沢ときの第一法則
  3. ブドウ糖とNaClのモル比が1になるための砂糖と塩のg比は11.7である。・・・塩沢ときの第二法則
【参考文献】