2010年7月14日水曜日

クスリのリスクを知る3(つ)の法則

抗MRSA薬ザイボックスTMのインタビューフォーム1によると、国内のデータでは、(1)血小板減少の副作用は、100例中19例、(2)味覚倒錯の副作用は0例であった。それぞれの副作用発生率の95%信頼区間はどのくらいだろうか?後者のように分子がゼロのリスクの95%信頼区間を3秒以内に答えることができるようになるのが今日のSBOで、右掲書に紹介されている「3の法則」。

それだけでは、間が持たないので、比率の95%信頼区間について3つの法則(公式)を並べてみた。

番目の法則:正規近似による母比率の信頼区間。(Wald法)

はじめに
本来なら、副作用の有無のようなカテゴリ変数の確率は二項分布に従うので、ClopperとPearsonの方法2のアルゴリズムを利用するのが、原理的には正確である。統計ソフトRの関数binom.testでは、その方法が採用されている。しかし、統計ソフトを使わないと計算が煩雑で、実用的とは言い難い。そこで実際には、nが充分大きいとき、二項分布B(n,p)が正規分布N(np,np(1-p))で近似されることを利用した下記の式が通常の統計学の教科書には紹介されている。
公式
p=s/nのとき、前提条件として、np > 10 かつ n(1 – p) > 10 であることが必要。
95%信頼区間=p±1.96×√(p(1-p)/n)
例題
(1) 0.19±1.96*sqrt(0.19*0.81/100)= 0.190±0.077 ∴ 11.3~26.7%
(2) np=0になるため計算不能
の法則:Agrestiと Coullの方法

はじめに
Agresti とCoull はWald の方法を修正したものを提案した3。「2の法則」というのは、副作用あり・なしのそれぞれに2例ずつ加える計算方法から名づけてみたもので、一般的な呼称ではありません。この方法では、s=0 の場合やs=nであっても信頼区間が計算でき、さらに、原理的には正確なはずのClopperとPearsonの方法よりも精度が高いと報告されています。
公式
p=(s+2)/(n+4)
95%信頼区間=p±1.96×√(p(1-p)/(n+4))
例題
(1) 21/104±1.96*sqrt((21/104)*(83/104)/104)=0.202±0.077 ∴ 12.5~27.9%
(2) 2/104±1.96*sqrt((2/104)*(102/104)/104) =0.019±0.026 ∴ 0~4.5%
3の法則:ゼロ分子のリスクの推定法

はじめに
「2の法則」で計算可能だが、なにせ面倒と思うのは私だけではないらしい。英語圏では、簡単な方法が医学雑誌の記事4、統計学の教科書5、Wikipedia6など広く紹介されている。原理は、(1-p)n=0.05の両辺対数を取って、n×ln(1-p)=ln(0.05)。テーラー展開の第二項以降をネグると、ln(1-p)≈-pなので、np= –ln(0.05) = ln(20) = 2.9957 ≈ 3
公式
上側95%信頼区間=3/n
例題
(1) 分子≠0なので計算不能。
(2) 3/100=0.03 ∴ 0~3.0%
 ちなみに、例題の副作用は、同じインタビューフォームによると、海外データでは2,367例中血小板減少が9例(0.38%)、味覚倒錯が24例(1.01%)だったそうです。薬剤師さんがメーカーに国内データと海外データの違いについて問い合わせて頂いたところ、理由は明らかではないが、下記の3点が考えられるとのことでした。
  1. 国内試験のほうが、高齢者・重症者が多かった。
  2. 国内外で有害事象の報告義務の程度が異なる。
  3. 海外治験が先行していたため、国内試験では骨髄抑制に注目が集まった。
文献
  1. ザイボックスのインタビューフォー厶http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/3/400079_6249002F1024_3_1F
  2. Clopper, C.; Pearson, E. S. (1934). "The use of confidence or fiducial limits illustrated in the case of the binomial". Biometrika 26: 404–413.
  3. Alan Agresti, Brent A. Coull Approximate Is Better than "Exact" for Interval Estimation of Binomial Proportions The American Statistician, Vol. 52, No. 2. (1998), pp. 119-126.
  4. Hanley JA, Lippman-Hand A. If nothing goes wrong, is everything all right? Interpreting zero numerators. JAMA. 1983 Apr 1;249(13):1743-5. http://www.medicine.mcgill.ca/epidemiology/hanley/Reprints/If_Nothing_Goes_1983.pdf
  5. Gerald van Belle "Statistical Rules of Thumb" http://www.vanbelle.org/chapters/webchapter2.pdf
  6. Wikipedia英語版 http://en.wikipedia.org/wiki/Rule_of_three_(medicine)

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