2011年2月23日水曜日

アナムネ聴取に役立つ3つでもニーモニック

 前回の「チームSTEPPS」に出てきた"STEP", ”I’M SAFE”, "CUS", "DESC", "S-BAR", "I PASS the BATON"のような英語の頭文字をつなげて記憶の助けにするものをニーモニック(mnemonic)と呼ぶ。正確には、アクセントの位置が2音節目にあるので、「ナニク(生肉)」というほうが原音に近いのだろうが、ここでは慣例的な表記に従う。日本語でいう語呂合わせみたいなもの。洋の東西を問わず、医学の学習は記憶すべきことが膨大で、英語でも"MedicalMnemonics.com"なるサイトがある。ここから、アナムをとるときに役立つニーモニックを3つ紹介したい。

1. SAMPLE:JATECのsecondary surveyにおける病歴の聴取
  • Signs and Symptoms: 症状は?
  • Allergies: 薬や食べ物のアレルギーは?アスピリン喘息は?
  • Medications:  処方薬、OTC薬、置き薬、サプリ、通販薬、合法ドラッグ、麻薬
  • Past History, Pregnancy, Perinatal period: 過去に同様なことは?既往歴は?妊娠、授乳は?
  • Last Oral Intake: 最後に何をいつ口に入れた?
  • Events Leading up to Illness/Injury: どうしてこんなことに?思い当たることは?
2.LET’S HEAR:「説明モデル」
 説明モデルとは、病いに対する解釈の枠組みのことで、医療者と患者では内容は異なっても、その枠組は共通している。そして、患者のそれを知ることは、Narrative-Based Medicineそのものと言える。詳細は、医療人類学の泰斗Arthur Kleinman氏の論文[1]や和訳されている上掲書に詳しい。
  • Label どんな病気?
  • Etiology 病気の原因は?
  • Timing 病気になった時期は?
  • Severity どのくらい重い?
  • History どういう経過でこれからどうなりそう?
  • Effect 心身に与える直接的な影響、症状とか心理的反応。
  • Affect 上記により二次的にQOLに与える影響。家事、仕事に及ぼす影響。
  • Remedy どういう対処をしてこれからどういう治療を希望するか?
3. ASQ LAST:疼痛の症状解析:「まず患者の語りを聴いて、閉じた質問は最後に。」という意味を掛けてある。
  • Aggravating and Alleviating Factors 憎悪・緩和因子
  • Severity 程度
  • Quality 性状
  • Location 部位
  • Associated Symptoms 随伴症状
  • Setting 開始
  • Timing 経過
研修医の先生が別な覚え方を披露をしてくれた。
  • 性か慢性か
  • きけをはじめとする随伴症状
  • ジエーション、放散を含めた部位
  • んし、症状を増悪あるいは改善させるもの。
  • イムコース
 特に痛みの性状に関しては、方言や言語により違いがあることに配慮が必要である。津軽弁に関しては、青森民医連で津軽弁講座が開かれていたりデータベースが作られたりという取り組みがある。英語の場合、McGill Pain Questionnaire[2]というものがある。下記のリストで自分の痛みを表す語を各群で1つのみ選択し、丸で囲む。1~11群で選んだものを3語、11~15群で選んだものを2語、16群で選んだものを1語、17~20群で選んだものを1語に絞り、定量化するという方法である。
1群 (temporal): Flickering(1), Pulsing(2), Quivering(3), Throbbing(4), Beating(5), Pounding(6)
2群(spatial): Jumping(1), Flashing(2), Shooting(3)
3群(punctate pressure): Pricking(1), Boring(2), Drilling(3), Stabbing(4)
4群(incisive pressure): Sharp(1), Cutting(2), Lacerating(3)
5群(constrictive pressure): Pinching(1), Pressing(2), Gnawing(3), Cramping(4), Crushing(5)
6群(traction pressure): Tugging(1), Pulling(2), Wrenching(3)
7群(thermal): Hot(1), Burning(2), Scalding(3), Searing(4)
8群(brightness): Tingling(1), Itchy(2), Smarting(3), Stinging(4)
9群(dullness): Dull(1), Sore(2), Hurting(3), Aching(4), Heavy(5)
10群(sensory miscellaneous): Tender(1), Taut(2), Rasping(3), Splitting(4)
11群(tension): Tiring(1), Exhausting(2)
12群(autonomic): Sickening(1), Suffocating(2)
13群(fear): Fearful(1), Frightful(2), Terrifying(3)
14群(pinishment): Punishing(1), Grueling(2), Cruel(3), Vicious(4), Killing(5)
15群(affective-evaluative-sensory: miscellaneous): Wretched(1), Binding(2)
16群(evaluative): Annoying(1), Troublesome(2), Miserable(3), Intense(4), Unbearable(5)
17群(sensory: miscellaneous): Spreading(1), Radiating(2), Penetrating(3), Piercing(4)
18群(sensory: miscellaneous): Tight(1), Numb(2), Squeezing(3), Drawing(4), Tearing(5)
19群(sensory): Cool(1), Cold(2), Freezing(3)
20群(affective-evaluative: miscellaneous): Nagging(1), Nauseating(2), Agonizing(3), Dreadful(4), Torturing(5)
【参考文献】
[1] Arthur Kleinman. Culture, Illness, and Care: Clinical Lessons from Anthropologic and Cross-Cultural Research Ann Intern Med February 1, 1978 88:251-258.
[2] Melzack R. The McGill Pain Questionnaire: major properties and scoring methods. Pain. 1975 Sep;1(3):277-99.

2011年2月9日水曜日

チームSTEPPS

 チームSTEPPSとは、Team Strategies and Tool to Enhance Performance and Patient Safety の略で、2005年にアメリカの航空業界のCRM(Crew Resource Management)と軍隊のオペレーション、原子力機関などのHROs(High-Reliability Organizations)に関する研究をもとにスタートされたチーム医療トレーニングプログラムのこと。日本へは、国立医療科学院安全科学室長種田憲一郎氏が導入し、2009年からこのプログラムを翻訳して国立保健科学院でセミナーを開始している。

 2011年1月に開催された日本医療メディエータ協会の年次総会で取り上げられ、今後医療安全の分野で広がっていくと思われるが、総会ではさわりの紹介に限られ、内容について詳細は明らかにされず、有料セミナーの内容は公開されていない。名称の宣伝とセミナー参加への誘導が現時点での戦略のようだ。

 以前から民医連の施設ではFaculty Developmentにチーム医療が挙げられ、実践されてきたが、具体的なエビデンスに基づいたり、発信する機会が少なかった。エビデンスに裏付けられて構成されているチームSTEPPSは、我々の実践を省みて成文化するモデルになり得る。

 まずは、AHRQ初代所長Dr. John Eisenbergの言葉、"Improving patient safety is a team sport." (患者の安全を改善するのはチームスポーツである。)をチームメンバーが肝に銘じる必要がある。そして、自分を含めメンバーの能力、状況を目配り(Situation monitor)し、思いやること(Mutual support)、声掛け(Communication)をすること、それにリーダーシップを加えた4つのコンピテンシーがチームSTEPPSの核となっている。

1.リーダーシップ
  • リソースマネジメント:チーム内で作業量の偏りがないように調整する。
  • 委任(Delegation):1)何を 2)誰に 3)明確な目標 4)フィードバックの指示(GTDの"Do it, delegate it, defer it or drop it."のDelegateの具体的方法)
  • 業務前・中・後に行う打ち合わせ、進捗確認、振り返りのミーティング(業務中のハドルは、アメフトの試合途中で円陣を組んで行う作戦の打ち合わせの意味)
  • コンフリクトの解決
2.状況モニタリング
  • 状況認識:STEP(Status of the patient, Team Members, Environment, Progress toward goal)
  • 相互モニター:I'M SAFE(Illness, Medication, Stress, Alcohol and Drug, Fatigue, Eating and Elimination)
3.相互支援
  • 作業支援
  • フィードバック
  • 患者擁護と主張
  • 2回チャレンジルール:主張は退けられても2回はすることが個人の責任。
  • 主張の強度:CUS(Concern, Uncomfortable, Safe issue)
  • 角の立たない進言の方法:DESCスクリプト(Describe, Express, Suggest, Consequence)
  • 協同
4.コミュニケーション
  • 緊急情報の伝達:S-BAR(Situation, Background, Assessment, Recommendation and Request)
  • コールアウト(声出し確認)
  • チェックバック(再確認)
  • 引き継ぎ:I PASS the BATON(Introduction, Patient, Assessment, Situation, Safety, Background, Actions, Timing, Ownership, Next)

安全文化醸成を根付かせる8つのステップ
  1. チームに緊迫感をつくる
  2. 誘導チームをつくる
  3. ビジョンと戦略を練る
  4. メンバーの理解と受け入れを促す
  5. 他者へのエンパワメントを図る
  6. 短期的な成功を獲得する
  7. 減速させないで継続する
  8. 新しい組織文化を醸成する
 以上は、ハーバードビジネススクール史上最年少で教授になった「リーダーシップ論」の権威、ジョン・P・コッターによる寓話「カモメになったペンギン」による。ペンギン達が、住んでいる氷山(Iceberg)が溶け始める危機に瀕する。この危機をペンギン達が乗り越えていく物語。医療事故の話では、ハインリッヒの法則をもとにした氷山モデルが語られることが多いが、我々の仕事はこの氷山を溶かし小さくすることなのでした。ペンギンさん達には申し訳ないことですが…
 Eisenberg氏の言葉で始まり、Icebergの話で終わるレジメでした。

参考文献
  • 医療安全 7(2), 38-44, 2010-06 チームとしてのよりよいパフォーマンスと患者安全を高めるためのツールと戦略 (チームSTEPPS 日本の医療施設でどう応用するか?)
  • エキスパートナース 2010年11月号 第2ステージに入った医療安全対策最前線 輸液・感染リスクマネジメントの具体的進め方[第2回] 医療安全の推進・質の向上に成果を上げる“チームSTEPPS”と有効なコミュニケーション・ツール
  • Medsafe.Net TeamSTEPPS チームのパフォーマンスを高めるコミュニケーションの向上

2011年1月12日水曜日

Narrative Based Medicineの一例

 今日は、ナラティブ・アプローチの紹介の講義でした。社会構築主義をベースに文化人類学などで従来からなされていた社会を「言葉」、「語り」、「物語」という視点から見直すアプローチのことで、英国のプライマリ・ケアを担う医師たちにより医療にも導入された。1998年にBMJ Booksから発行された"Narrative Based Medicine-Dialogue and discourse in clinical practice"(Greenhalgh T & Hurwitz B eds, 1998)というモノグラフにより世界に広がり、日本語にも「ナラティブ・ベイスト・メディスン―臨床における物語りと対話」として訳され、現在では、DIPEx JapanなどのNPOの活動が現れるに至っている。
 今回は、家族への指導が不十分なまま退院して、在宅スタッフが苦労した一例を通じて、ナラティブ・アプローチの実際を説明頂いた。
【患者紹介】
70代女性。17年前に脳出血発症し、右マヒ、重度の失語を残す。
約1年の入院リハビリをうけて自宅退院した。その後、肺梗塞、胃食道静脈瘤や肺炎で何度か危機的状況になったが、のりきってきた。長期施設には一度も入ることなく、入院以外は16年間、自宅で夫ひとりが介護してきた。最初のころは屋内歩行していたが、徐々に力がおちてここ数年は歩行不能、起き上がりも介助になっていた。
2010年に肺炎で入院したさい、いままでやっていた介助でのポータブルトイレ使用は夫の負担が大きいと考えて、病棟スタッフは、退院後はベッド上の排泄介助にするよう夫にすすめた。
しかし、夫はベッド上排泄はかわいそうだと、うけいれず、介助でポータブルを使用すると主張して自宅退院した。退院後の訪問診療できくと、退院直後の数日は介助でトイレ排泄していたが、じきに夫も音をあげてベッド上排泄になっていた。ベッドでのおむつ交換や陰部洗浄などの介護指導は、入院中、夫が受け入れなかったため、退院後、訪問看護師が指導した。
家族に対して病棟スタッフが、もっときちんと指導してほしかったと、在宅スタッフから指摘された。病棟でも夫を説得したつもりだったが、家族が頑固だったのが原因だろうかと推測した。そこで、夫が、どんな気持ちで16年間、介護してきたのかインタビューしてみた。
【夫の話】
妻が26歳、自分が23歳のときに結婚した。
自分は農家の六男坊で、親からは名前以外、なんの財産もうけつがず、えらい貧乏で苦労した。自分は長距離トラック運転手をしていた。2人の子供を育てながら、妻(患者)は、昼間は学校給食、夜は寿司屋の手伝いをしていた。朝早くから夜10時まで自分以上に働いていた。そんな妻が倒れたとき、妻に苦労かけてきたと思ったし、自分が看なければと思って、すぐ会社の社長に話して、介護のため退職した。以後16年ずっと介護してきた。自分が飯つくって、自分が食わせて、それで喜ぶ妻をずっとみてきた。自分がやらないと、かわいそうとおもってしまうので、病院に入院しても1日2度は心配で顔をみに行ってた。死ぬまで自分がみるつもりだし、施設に預ける家族の気持ちは自分には理解できない。
【まとめ】
妻が死ぬまで家庭介護をつづけたいというのが家族の気持ち。その気持ちにそって今どんな介護をくみたてたらいいか、入院中に家族ともっと話し合うべきだった。そうすることで、家族に負担をかけずに長続きする介護のありかたが合意できたのではないかと思う。
 EBMが患者さんの問題にフォーカスするとすれば、NBMはその背景を描き出す手法で、双方を使うことで初めて患者さんの全体像が把握できるように思います。
 講義後は、糖尿病などの慢性疾患や医療メディエータへの応用について討論されました。

2010年12月28日火曜日

MGHの症例検討会キーワード50 ーコーパス言語学で学ぶ医学英語ー

【背景】学生時代に遡る。ある助教授の先生が、名医になる方法として、New England Journal of Medicine(以下NEJMと略す)のシリーズ”Case records of the Massachusetts General Hospital”を10年間続けて読むことを挙げていた。忙しさにかまけ実行せず、すっかりと藪が身についてしまった。最近、”Better late than never.”という諺に希望を見出し、ぼちぼち目を通すが、単語力の不足が堪える。そこで効率よく単語を覚えるために同シリーズで頻回に使用される単語の単語帳を試作した。

【目的】”Case records of the Massachusetts General Hospital”で使用される単語のうち記憶があやふやな単語の頻度上位50単語の単語帳を試作する。

【対象】”Case records of the Massachusetts General Hospital”を1990年1月4日号から2010年12月23日号までの894回分を対象とした。

【方法】
ステップ1:オリジナル記事の検索
 NEJMホームページからARTICLES→Browse all articles→Case records of the Massachusetts General Hospital→Specific date rangeで”From: Jan 1990 To: Dec 2010”と設定して、Searchボタンをクリック。

ステップ2:テキスト化する。
 テキスト・エディタ(Windowsではメモ帳)を起動して、上記オリジナル記事1回分を1テキストファイルにひたすらコピー&ペーストする。その際、ファイル名はcase+西暦+年間通し症例番号.txtとして適当なディレクトリに保存する。

ステップ3:コンコンダンサーソフトAntConcでWord Listを作成する。
 a) 早稲田大学Laurence Anthony先生のホームページから”AntConc”をダウンロードする。(Windows、MacOS、Linux、それぞれのバージョンがある。)同時に、同ページのOther resourcesから後の設定で使う”Someya Lemma List (with no hyphenated words)”もダウンロードし、zipファイルを解凍しておく。

 b) AntConcの設定する。素のままでは、例えば、be動詞のam、are、is、was、were、been、beingは全部別単語となってしまうので"lemmatisation"の設定が必要になります。Tool PreferencesのWord ListでLemma List OptionsのUse lemma list fileをチェックし、Openボタンを押して、先に解凍した”e_lemma_no_hypen.txt”を選択、Loadボタンを押す。表示されたら、OKボタンを押し、下のApplyボタンを押す。

 c) Word Listを作成する。File→Open Dir...でテキストを保存したディレクトリを開くと、中のテキストファイルが読み込まれる。それから、Word Listタグをクリックし、Startボタンを押す。暫く待つと、下図のように単語の頻度が得られる。



 d)結果を出力する。File→Save Output to Text File... で結果を適当な場所に保存する。デフォルトでは、ファイル名はantconc_results.txtとなる。

4.表計算ソフトで読み込み、整理、出力
 先に出力したantconc_results.txtをタブ区切りの表として表計算ソフトに読み込む。順位や頻度、変化形の列を削除し、分かる単語の行を削除していく。分からない単語が50になったところでその範囲をコピーする。

5.単語帳を作る。
 ブラウザでライフサイエンス辞書オンラインサービスEtoJ Vocabを開き、「英文テキストを入力」の欄に表計算ソフトでコピーした内容をペーストする。オプション設定は、「▼結果を単語帳形式▼で出力する」にして送信ボタンを押す。

【結果】上記の作業で得られた結果を示す。(アルファベット順になっていることに注目)
  1. abrasion □ 摩耗, 擦過, 剥離, 侵食, (病名) 表皮剥脱, 擦過傷, 擦過創
  2. advent □ 出現, 到来
  3. anovulation □ 無排卵, 無排卵症, 排卵障害
  4. apply □ 適用する, 応用する, 申請する, あてはまる, 充てる, アプライする
  5. attach □ 付着する, 添付する, 関連する
  6. bout □ 発作
  7. bruise □ 挫傷, 打撲, 打撲傷, 打身, ((動詞)) 傷つける
  8. concatenate □ 連鎖状の
  9. concomitant □ 随伴性の, 同時の, 併用の, 付随物
  10. confine □ 限局する, 制限する, 限定する, 拘束する
  11. confluence □ (培養細胞が接着面いっぱいに広がった状態) コンフルエンス, 集密
  12. contiguous □ 近接する
  13. corroborate □ 実証する, 確証する
  14. corrugated □ しわが寄った, ひだ状の
  15. debilitate □ 衰弱させる
  16. dehiscence □ (病名) 離開, 披裂, 裂開
  17. depict □ 描写する, 示す, 表す
  18. detach □ 脱離する, 剥離する, 離れる, 引き離す
  19. distinctive □ 特有の, 特徴的な, 弁別的な
  20. ensue □ 後に続く, 結果として起こる
  21. entail □ 必要とする, (必然的に) 伴う
  22. equivocal □ 多義的な, 疑わしい, 不確かな
  23. exclusively □ もっぱら, 独占的に, 排他的に
  24. hallmark □ (顕著な) 特徴, (品質などの) 証明
  25. illicit □ 違法な
  26. impinge □ 衝突する, 侵害する, 影響する
  27. inconclusive □ 決定的でない, 不確定の
  28. inconspicuous □ 目立たない
  29. indolent □ 無痛性の, 緩徐進行型の
  30. nonetheless □ ((文頭で用いて)) にもかかわらず
  31. obviate □ 除去する, 取り除く, 不必要にする
  32. poultry □ (食用の飼い鳥) 家禽, 家禽類
  33. predilection □ 偏向, 偏好
  34. presumably □ おそらく, 多分
  35. profuse □ 大量の
  36. putative □ 推定上の, 仮想の
  37. pyknotic □ 核濃縮の
  38. recrudescence □ 再発
  39. sequester □ 隔離する, 隔絶する, 捕捉する
  40. sessile □ 固着の, ((植物)) 無柄の
  41. spillage □ 溢流
  42. tangle □ もつれ, 濃縮体, ((動詞)) もつれる
  43. tentative □ 仮の, 試みの
  44. tether □ 繋ぎ止める, 繋留する, 係留する
  45. tortuous □ 蛇行状の
  46. tuft □ 房
  47. vault □ (かまぼこ様の形状) 円蓋, ((動詞)) 跳躍する
  48. vicinity □ 近傍, 近く
  49. violaceous □ (皮膚の紫色への変色を指す) 紫色の
  50. whereas □ 他方では, 一方では, ところが, しかるに
【考察】
 コーパス言語学とは、Wikipediaの記載によると、「実際に使用された言語資料の集成をコーパスと呼ぶが、最近では特に電子化された言語資料のことを指す。そのコーパスを利用して、より実際的な言語の仕組みを探る学問がコーパス言語学である。」と説明されている。つまり、従来の規範文法に従った言語学ではなく、実際に書かれたり話されたりする言葉を基にした言語学をいう。医学分野でいうEBM同様、演繹思考から帰納思考へ転換した概念である。コーパス言語学やEBMが言語学や医学の世界にデビューしたのは同時期であるが、これは偶然ではなく、コンピュータにより大量のデータの蓄積・解析が可能になったことが関係していると考えられる。
 コーパス言語学は、文学作品の作者の判定や作品の真贋など文献学に応用されることが多かったが、近年では自然科学の範囲にも応用され始め、科学論文の剽窃判定や精神医学分野では、自殺者の作品や遺書が解析の対象になっている。
 近年、コンピュータや記憶媒体、それらの上で走るソフトの高性能化、低価格化により個人レベルでも大量データの処理が可能になってきた。それに伴い、個人が自分の専門分野に必要なコーパスを作り、解析することが容易になってきた。そこで英語教育界に生まれたのがESP(English for Specific Purpose)という概念である。極論すれば、呼吸器学の研究者は、産婦人科学の文献はもちろん内科学一般の文献でさえ読む必要はないのである。自分の関心分野の文献さえ読めればよいと割り切れば、関心分野の論文を集め、コンコーダンサーソフトで解析すれば、読むのに必要な単語が得られるわけである。AntConc日本語チュートリアルを繙けば、論文を書こうと思ったときも、知っているが使い方の分からない単語の例文がたちどころに得られ、その単語が他のどういう単語と組み合わせて使われるか(コロケーション)を把握することが出来る。

【結語】
 読んだ文献、読みたい英語文献はテキスト化しておくと、コンコーダンサーソフトで解析することにより、テーラメイドの単語帳や例文集を容易に作成することができる。

2010年12月16日木曜日

塵肺患者の肺機能と内科合併症

 今回は、北海道民医連第5回学術運動交流集会で発表した内容の紹介でした。看護師が中心となってまとめたもので、医師の視点とは異なる理解が素晴らしい。

はじめに
  • 2009年に日本呼吸器学会では、喫煙による肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は全身性疾患であると定義。喫煙による酸化ストレス→肺以外の臓器に影響→動脈硬化性疾患(脳卒中・心筋梗塞)、糖尿病などの合併に関係
  • COPDとは別疾患の塵肺にこの定義は当てはまるのか?
  • COPDアセスメントテスト(以下CAT)による患者個別問診、スパイログラム結果(肺年齢・換気型)、喫煙歴の有無、内科疾患合併例の有無について調査・分析した。
  • Aクリニックは、内科(在宅支援診療所・糖尿病専門外来・禁煙外来など)・小児科・労災科として展開。
  • 一日平均来院患者数400~450名
  • 労災科管理患者数283名(塵肺170名、振動病113名)
  • 内科疾患合併数→動脈硬化性疾患158名→耐糖能異常169名→高血圧174名→脂質異常166名→心疾患51名→脳血管疾患46名→癌疾患46名
塵肺患者のスパイログラム結果
  • 正常型 110名
  • 閉塞型 25名
  • 拘束型 18名
  • 混合型 9名
塵肺患者平均年齢 68.6歳
肺年齢平均 81.2歳
肺実年齢格差 12.6歳
CAT平均値 25.1点
喫煙歴のあるもの 42名
現在の喫煙者 40名
結果
  • 閉塞型、拘束型換気障害の有無は肺実年齢較差に有意差を示した。
  • 正常換気型のものでも肺実年齢較差が+10歳はみられた→従来のスパイログラム基準が日本人にはそぐわなかった結果である。
  • 喫煙歴の有無は肺実年齢較差、CATスコアに差が見られた。
  • 喫煙歴があるものは肺実年齢較差+14.9歳、喫煙歴のないものは+14.6歳であった。
  • 拘束性換気障害、喫煙歴、現在の喫煙、内科疾患の合併の有無は、実年齢に有意差を示した。
  • CATを用いた問診では、大半の塵肺患者では塵肺により呼吸器症状を苦痛と感じているために日常生活に影響されていることを自覚していた。
考察
  • 塵肺患者の肺実年齢の乖離には、喫煙の有無以上に塵肺疾患そのものの影響が見られる。
  • 従来のスパイログラムの基準(Baldwin予測式)は外国人の仰臥位での測定データを基準としており、日本人の肺機能を高く見積もられてきたために正確に反映されていないと考えられる。
  • 今回の調査時の肺機能の評価は従来の基準のために、塵肺患者の肺機能は不当に実際より良いと判断されてきたといえる。
  • 今回の調査時点では、肺年齢が日本人のデータを基にした日本呼吸器学会式によるものであるため、正常換気型においても肺実年齢差が見られた。
  • 肉体労働従事者であった塵肺患者は、年々加齢とともに内科疾患が合併されているが、さらに喫煙歴の有無が肺実年齢較差、呼吸器自覚症状と日常生活に影響を及ぼしている。
  • 塵肺患者の肺機能と内科疾患の合併には加齢と喫煙歴が影響している。
CATとは
  • COPDの状態が患者に及ぼす健康と日常生活に支障度を測る簡単で信頼性の高いツールとして開発された、患者記入式の質問票
  • 総合的に評価し、患者と医師の疾患に対する相互理解を深めることが可能。
  • CAT質問票の記入は数分で行うことが出来る。
  • CAT質問票の内容は8項目の簡単な質問で構成されているため、ほとんどの患者が容易に質問内容を理解し回答することが出来る。
おわりに
  • 今回は、塵肺患者に対して、肺機能評価の指標としてのスパイログラム、肺年齢、COPD評価の質問票であるCAT、喫煙歴と塵肺患者の内科合併症の有無との相関について検討することが出来た。
  • 塵肺はCOPDと同様に進行性の疾患であり、患者自身が症状に慣れてしまうことでその進行に気づかずに健康状態への影響を医師、看護師に伝えることは困難であるため、多くの患者が重症化し生活の質が低下したまま放置されていく恐れがあった。しかし、CAT問診票による評価とスパイログラムにより肺年齢の評価を併用することで、塵肺による健康状態と日常生活への影響を把握し患者個々にあった治療を受けることが出きると考える。
  • 塵肺患者は労災給付という保障がなされている半面、病態としては、年々症状が悪化して日常生活に影響が大きい疾患である。
  • 平均年齢68.6歳の高齢患者層であり、内科疾患合併者が多数存在するためにそれらの疾病管理にも重点が置かれる。
  • 今回塵肺患者170名に対して、CAT問診を行い、塵肺患者が医療従事者側の客観的判断よりは重い自覚症状と日常生活に支障を感じていることが理解でき、患者と共有できた。
  • 今後も、CAT問診票の活用と一人一人の塵肺患者に対して、疾患による影響の共有と援助の展開を目指したい。
参考