2010年12月16日木曜日

塵肺患者の肺機能と内科合併症

 今回は、北海道民医連第5回学術運動交流集会で発表した内容の紹介でした。看護師が中心となってまとめたもので、医師の視点とは異なる理解が素晴らしい。

はじめに
  • 2009年に日本呼吸器学会では、喫煙による肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)は全身性疾患であると定義。喫煙による酸化ストレス→肺以外の臓器に影響→動脈硬化性疾患(脳卒中・心筋梗塞)、糖尿病などの合併に関係
  • COPDとは別疾患の塵肺にこの定義は当てはまるのか?
  • COPDアセスメントテスト(以下CAT)による患者個別問診、スパイログラム結果(肺年齢・換気型)、喫煙歴の有無、内科疾患合併例の有無について調査・分析した。
  • Aクリニックは、内科(在宅支援診療所・糖尿病専門外来・禁煙外来など)・小児科・労災科として展開。
  • 一日平均来院患者数400~450名
  • 労災科管理患者数283名(塵肺170名、振動病113名)
  • 内科疾患合併数→動脈硬化性疾患158名→耐糖能異常169名→高血圧174名→脂質異常166名→心疾患51名→脳血管疾患46名→癌疾患46名
塵肺患者のスパイログラム結果
  • 正常型 110名
  • 閉塞型 25名
  • 拘束型 18名
  • 混合型 9名
塵肺患者平均年齢 68.6歳
肺年齢平均 81.2歳
肺実年齢格差 12.6歳
CAT平均値 25.1点
喫煙歴のあるもの 42名
現在の喫煙者 40名
結果
  • 閉塞型、拘束型換気障害の有無は肺実年齢較差に有意差を示した。
  • 正常換気型のものでも肺実年齢較差が+10歳はみられた→従来のスパイログラム基準が日本人にはそぐわなかった結果である。
  • 喫煙歴の有無は肺実年齢較差、CATスコアに差が見られた。
  • 喫煙歴があるものは肺実年齢較差+14.9歳、喫煙歴のないものは+14.6歳であった。
  • 拘束性換気障害、喫煙歴、現在の喫煙、内科疾患の合併の有無は、実年齢に有意差を示した。
  • CATを用いた問診では、大半の塵肺患者では塵肺により呼吸器症状を苦痛と感じているために日常生活に影響されていることを自覚していた。
考察
  • 塵肺患者の肺実年齢の乖離には、喫煙の有無以上に塵肺疾患そのものの影響が見られる。
  • 従来のスパイログラムの基準(Baldwin予測式)は外国人の仰臥位での測定データを基準としており、日本人の肺機能を高く見積もられてきたために正確に反映されていないと考えられる。
  • 今回の調査時の肺機能の評価は従来の基準のために、塵肺患者の肺機能は不当に実際より良いと判断されてきたといえる。
  • 今回の調査時点では、肺年齢が日本人のデータを基にした日本呼吸器学会式によるものであるため、正常換気型においても肺実年齢差が見られた。
  • 肉体労働従事者であった塵肺患者は、年々加齢とともに内科疾患が合併されているが、さらに喫煙歴の有無が肺実年齢較差、呼吸器自覚症状と日常生活に影響を及ぼしている。
  • 塵肺患者の肺機能と内科疾患の合併には加齢と喫煙歴が影響している。
CATとは
  • COPDの状態が患者に及ぼす健康と日常生活に支障度を測る簡単で信頼性の高いツールとして開発された、患者記入式の質問票
  • 総合的に評価し、患者と医師の疾患に対する相互理解を深めることが可能。
  • CAT質問票の記入は数分で行うことが出来る。
  • CAT質問票の内容は8項目の簡単な質問で構成されているため、ほとんどの患者が容易に質問内容を理解し回答することが出来る。
おわりに
  • 今回は、塵肺患者に対して、肺機能評価の指標としてのスパイログラム、肺年齢、COPD評価の質問票であるCAT、喫煙歴と塵肺患者の内科合併症の有無との相関について検討することが出来た。
  • 塵肺はCOPDと同様に進行性の疾患であり、患者自身が症状に慣れてしまうことでその進行に気づかずに健康状態への影響を医師、看護師に伝えることは困難であるため、多くの患者が重症化し生活の質が低下したまま放置されていく恐れがあった。しかし、CAT問診票による評価とスパイログラムにより肺年齢の評価を併用することで、塵肺による健康状態と日常生活への影響を把握し患者個々にあった治療を受けることが出きると考える。
  • 塵肺患者は労災給付という保障がなされている半面、病態としては、年々症状が悪化して日常生活に影響が大きい疾患である。
  • 平均年齢68.6歳の高齢患者層であり、内科疾患合併者が多数存在するためにそれらの疾病管理にも重点が置かれる。
  • 今回塵肺患者170名に対して、CAT問診を行い、塵肺患者が医療従事者側の客観的判断よりは重い自覚症状と日常生活に支障を感じていることが理解でき、患者と共有できた。
  • 今後も、CAT問診票の活用と一人一人の塵肺患者に対して、疾患による影響の共有と援助の展開を目指したい。
参考

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