1995年1月17日兵庫県南部地震、3月20日地下鉄サリン事件と続き、日本の安全神話が崩れ去った時代精神(Zeitgeist)のなか、1996年4月1日に「ER緊急救命室」の日本での放映は始まった。それから15年が経ち、本日最終話、第331話を迎えた。そのリアリティから多くの医療関係者の視聴者を獲得した。臨床医学でインパクトファクターがトップの雑誌NEJMでのネタにまでなった[1]ことからもその影響力が窺えよう。個人的には、様々な医学的な事項を学んだり、アメリカの医療制度を知ったりする契機になった。そしてなにより、神ではない医師たちの群像に安堵したものだ。
このドラマのもとになったのは、ドラマの監修者マイケル・クライトン自身が1960年代後半にMGHのERで研修したときに経験したアメリカ医療の問題点を描いた「五人のカルテ」という小説である。小説と呼ぶには少し変わったスタイルで、症例呈示をしながら、その医学的背景の歴史や制度の解説を加えるという体裁をとっていて、正直、ストーリーとして楽しめるものでもない。しかし、現代のアメリカの医療が抱えている問題を正確に予言しているのは驚異的な洞察力で、ドラマに親しんだあとに読むと、内容の理解に深みが増すのはうけ合いである。
今日のラストシーンでは、カーター先生が、亡き恩師グリーン先生の娘レイチェルをERに招き入れ、カメラが引いてCounty General Hospitalの全景が、初めて映しだされる。15年間に数多くの生死や恋愛の舞台となってきたERが、実は、大病院の一部門であり、さらには病院の前を電車が横切り、その大病院でさえも社会のごく一部であるというあたりまえの現実を最後に突きつけている。示唆的なシーンである。
[1] Cardiopulmonary Resuscitation on Television — Miracles and Misinformation
Susan J. Diem, M.D., M.P.H., John D. Lantos, M.D., and James A. Tulsky, M.D.
N Engl J Med 1996; 334:1578-1582June 13, 1996
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