2011年4月27日水曜日

伝染性単核球症


【はじめに】
 前回の抗菌薬のまとめでも指摘されたが、アモキシシリンやアンピシリンの投与では95%以上、その他のβラクタム剤の投与で40-60%で麻疹様皮疹を引き起こすとされる[1]。一般外来で9%を占めるとされる咽頭炎のうち、A群連鎖球菌による咽頭炎は小児例の15-30%、成人例の10%を占める[1]。一方、伝染性単核球症は咽頭炎を呈する成人の2%を占めるに過ぎない[2]。一般外来で通常年間1-4例を数える程度である[2]。A群連鎖球菌感染が確認されれば、リウマチ熱予防のために抗菌薬の投与が必要になる。伝染性単核球症患者のうち3-30%が溶連菌感染を合併している[2]と言われ、EBV感染は独立した評価が必要になってくる。


【疫学】
  • 感染は主に唾液を介してであり、俗称「キス病」と言われる所以である。
  • 血清学的調査では、成人の95%が感染しており、半数は1歳から5歳の間に不顕性感染または軽微な症状でEBVに初感染し、残りの半数は十代で感染し、伝染性単核球症を発病する。
  • 発症には、性差はなく、季節差もないとされる[1],[2]が、夏期に多いという報告[3]もある。私見では、夏期に多いというのは頷ける。
  • 潜伏期は4-8週と推定されている。
  • 10-19歳で6-8/1,000の発症率。
  • 10歳未満、30歳以上では、1/1,000未満の発症率。
  • 入隊あるいは大学入学した青年層で11-48/1,000の発症率。
【診断】
  • 古典的三徴は、咽頭炎、発熱、リンパ節腫脹で、その80%はEBV感染が占める。他にHHV6(<10%)、CMV(5-7%)、Toxoplasma gondii(<3%)、HIV(<1%)感染でも同様の症状があり、Monospot検査の偽陽性も報告されている[2]ので、妊婦では各感染の除外が必要である。[1]
  • Monospot(ヘテロフィル抗体検査)では、発症1週までは25%、2週までは5-10%、3週までは5%程度偽陰性となり、12歳以下では50-75%が偽陰性となる。一旦陽性になると1年以上陽性が継続することがある。[1]
  • 10~30歳の患者さんで咽頭痛、倦怠感、口蓋の点状出血、後頸部・耳後・腋窩・鼠径部リンパ節腫大を呈する場合は伝染性単核球症を疑うべきである(Grade B)。[2]
  • 20%以上の異型リンパ球増多あるいは50%以上のリンパ球増多があり、10%以上の異型リンパ球増多があれば、伝染性単核球症を示唆する(Grade C)[2]
  • 私見では、リンパ球/白血球数比が0.35以上で感度90%、特異度100%という報告もある[4]が、かなり眉唾。
  • 触診上の脾腫は、感度7%、特異度99%である。
  • 入院した伝染性単核球症例では、超音波上、脾腫は100%、肝肥大は50%に認めたという報告がある。[2]
  • トランスアミナーゼの上昇の感度は50%程度である。
  • VCA抗体IgMは感度、特異度ともに高いが、保険点数230点、2-3日を要し、スポーツ選手など早くに白黒つけなければならない患者に初回での検査が推奨されている。EBNA-IgG陽性なら既感染を示唆する。
  • 有名なHoagland基準(リンパ球50%以上、異型リンパ球10%以上、発熱、咽頭炎、リンパ節腫脹あり、抗体検査陽性)は特異度は高いが、感度は50%程度である。[2]
【治療】
  • 基本的には対症療法を行う。熱や筋肉痛に対しては、NSAIDかアセトアミノフェン、咽頭痛に対しては、トローチ、スプレー、2%キシロカインでの含嗽。
  • 伝染性単核球症の治療には、ステロイド、アシクロビル、抗ヒスタミン薬のルーチンの投与は薦められない(Grade B)[2]
  • ステロイドは、呼吸苦時や咽頭浮腫が強い時には有用かもしれない(Grade C)[2]
患者さんへの説明
  • 安静は回復を遅らせるという古い報告もあり、なるべく通常の生活を指示する。[2]
  • 倦怠感、筋肉痛、眠気が急性感染が治癒したあとも数カ月持続するかもしれない(Grade B)[2](疲労感は13%で、眠気は9%で6ヶ月持続する。)
  • 伝染性単核球症の患者さんは症状出現時から少なくとも4週間、症状が消失するまで接触や衝突のあるスポーツに参加するべきではない(Grade C)[2]
  • 大多数の成人が抗体を持っているので、特別な感染防御策は必要ない。
【Clinical Pearl】
  • 別名、腺熱。熱のある患者さんには、リンパ腺の触診は必須。
  • 時間さえあれば、超音波検査は有益。
【参考文献】
[1] Infectious Mononucleosis N Engl J Med 2010; 362:1993-2000 May 27, 2010  
[2] Epstein-Barr Virus Infectious Mononucleosis Am Fam Physician. 2004 Oct 1;70(7):1279-1287. 
[3] Clinical and laboratory presentation of EBV positive infectious mononucleosis in young adults. Epidemiol Infect. 2003 August; 131(1): 683–689.  
[4] Lymphocyte–White Blood Cell Count Ratio A Quickly Available Screening Tool to Differentiate Acute Purulent Tonsillitis From Glandular Fever Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2007;133(1):61-64.

2011年4月15日金曜日

抗菌薬のまとめ


今回は、研修医の先生に抗菌薬の使い方を講義していただいた。

ペニシリン系の分類

  1. PCG(点滴:注射用ペニシリンGカリウム、内服薬:バイシリンGカリウム)
  2. アミノペニシリン(点滴:ビクシリン、内服薬:パセトシン、アモリン)→細菌性と確定した急性咽頭炎、対症療法で治らない急性中耳炎、対症療法で治らない急性副鼻腔炎、肺炎球菌による軽症肺炎、梅毒(プロベネシド併用)
  3. 黄色ブドウ球菌に効くペニシリン(日本にない)
  4. 緑膿菌用ペニシリン(点滴:プランジン)
  5. ベータラクタマーゼ阻害薬入りペニシリン(点滴:ピシリバクタ、スルバクシン、内服薬:オーグメンチン)→憩室炎など腹部感染症、動物咬傷、アモキシシリン難治例

セファロスポリン系の分類(腸球菌とリステリアには効かない!)

  1. 黄色ブドウ球菌やレンサ球菌に主に使える「オレセファ」(点滴:セファメジン、タイセゾリン、内服薬:ケフポリン)→SSTI
  2. ペニシリン耐性の肺炎球菌、多くのグラム陰性菌をカバーし、市中肺炎や尿路感染症に使い勝手がよい「ハニセファ」(点滴:セフトリアキソン、ロゼクラート)
  3. 嫌気性菌をカバーし、腹部骨盤系の感染症に使いやすい「ケセファ」(点滴:セフメタゾール、内服薬:セフジニル、メイアクト) →顔面の蜂窩織炎、原因不明の市中肺炎
  4. 多くのグラム陰性菌に加え、緑膿菌に効果のある「リョクセファ」(点滴:モベンゾシン)
その他の抗菌薬

  • マクロライド→異型肺炎、百日咳、STD、猫ひっかき病、ピロリ菌除菌
  • ST合剤→膀胱炎、オレセファで治らないSSTI、PCP予防
  • ドキシサイクリン→市中肺炎、STD、ツツガムシ病、梅毒
  • ニューキノロンは、他剤との相互作用あり、結核の見逃しにつながる恐れがあるので、可及的に外来では使用しない。
    私が研修医だったころは、モダシンは、ばい菌を「一網打尽」にするなんて信じてましたから、最近の研修医は非常に優秀です。